死を覚悟した教授に訪れる、突然の恋
何事もなかったかのように大学に出かけ、どこにでもいる男性教授として英文学の授業を進めるジョージ。そんな彼の本当の気持ちを知ってか知らずか、一人の美しい学生、ケニー（ニコラス・ホルト）が、屈託のない微笑みを浮かべならジョージを見つめています。
ケニーはたぶん前から教授に好意を持っていたのでしょう。ジョージに文学の話題を持ちかけ、積極的にアプローチしてきます。ジョージにとっては青天の霹靂ですが、その若さと美しさ、罪のない明るさに魅了されていきます。
天使のような美青年の強力すぎる魅力は、一度は死を覚悟したはずのジョージの凍りついた心をとかし、再び生きる意欲を取り戻させるのでした。
（あまりにもできすぎた偶然です。まるで、神様から「生きなさい」と言われているかのようです。そういう意味でも、ケニーは天使なのです）
この『シングルマン』の物語にとって、このワイルドな魅力を持った男性との邂逅は、おそらく「性的なもの」の象徴だと思います。一時はとても興奮するかもしれないけど、自分がどんな人間で、何を感じ、何を考えているか、語り合うことはない、愛に結び付くことはない、その場限りの関係です。
生きる力の源泉とは、性の欲望（エロス）なのか？ と問いかけているようにも思えます。でもたぶん、それだけでは十分ではなかった…誰かを愛することが必要だったと、示唆しているかのようです。
まるで運命のいたずらのように、ジョージの「Xデー」に訪れる様々な出来事。世界はすっかり違う色合いを帯びて見えてきます。そうした出来事が物語るのは、生きる意味とは、愛せる誰かがいるかどうかということだ、というメッセージのように思えます。
きっとご覧になった方は、それぞれ少しずつ違った感想を抱くような気がします。ぜひ、映画館で観てみてください。
『シングル・マン』 A Single Man
2009年／アメリカ／監督：トム・フォード／出演：コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、ニコラス・フォルト、マシュー・グードほか／配給：ギャガ／10月2日（土）より新宿バルト9ほか全国にてロードショー公開
