不眠・睡眠障害/睡眠時無呼吸症候群(SAS)

原発性中枢性睡眠時無呼吸症候群とは?

睡眠時無呼吸症候群は大きく分けて、空気の通り道が詰まって起こる「閉塞性」と、脳からの指令がうまくいかない「中枢性」の2つがあります。ここでは、原発性中枢性の睡眠時無呼吸症候群についてご紹介します。

坪田 聡

執筆者:坪田 聡

医師 / 睡眠ガイド

いろいろある睡眠時無呼吸症候群

睡眠中に呼吸が止まる原因は3つあります

睡眠中に呼吸が止まる原因は3つあります

睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている時に呼吸が止まる「無呼吸」や、呼吸の回数や量が減る「低呼吸」が原因で、睡眠障害が起こってしまう病気。睡眠時無呼吸症候群は、そのタイプにより3つに分類されています。

■ 閉塞型の睡眠時無呼吸症候群

鼻あるいは口から肺に至るまでの空気の通り道である気道の一部が、狭くなったり詰まったりして、一時的に呼吸できなくなるタイプ。医療機関を受診する患者さんの中で最も多いタイプです。

■ 中枢型の睡眠時無呼吸症候群
脳にある呼吸をコントロールする部分(呼吸中枢)の働きが異常になり、呼吸に関する筋肉に脳からの指令が届かなくなって呼吸が止まるタイプ。脳血管障害やうっ血性心不全、高山病などが原因の睡眠時無呼吸症候群も、このタイプに含まれます。

■ 混合型の睡眠時無呼吸症候群
1回の無呼吸発作の中で、中枢型に引き続いて閉塞型が起こるタイプ。


脳から呼吸の指令がうまく出ない

原因は頭の中にあります

中枢性睡眠時無呼吸症候群の原因は頭の中にあります

脳にある呼吸中枢は、私たちが眠っていても呼吸筋に電気信号を送って呼吸を続けさせています。ところが、何かの原因で脳からの指令が出なくなり呼吸しなくなった状態が、中枢性睡眠時無呼吸症候群です。

国際的な睡眠障害の分類法では中枢性睡眠時無呼吸症候群を、以下の6つに分けています。
  • 原発性
  • チェーンストーク呼吸パターンによるもの: うっ血性心不全や脳血管障害に合併する
  • チェーンストーク呼吸以外の内科的疾患によるもの : 脳炎後遺症や神経・筋疾患、脊柱側弯症、結核後遺症などに起きる
  • 高地性周期性呼吸によるもの: 標高が高く空気の薄い山岳地帯で起きる、高山病の一種
  • 薬剤や麻薬によるもの: 薬の作用で呼吸中枢が抑制されるもの
  • 乳幼児の原発性: 睡眠や呼吸のコントロールが未発達な幼い子どもに起き、突然死の原因になる
はじめの「原発性」というのは、他に原因が見あたらないのに呼吸が止まってしまう、という意味。ここでは、この原発性中枢性睡眠時無呼吸症候群について解説します。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、気道が閉塞して呼吸できなくなるので、苦しくなって一生懸命に呼吸しようと努力します。ところが原発性中枢性睡眠時無呼吸症候群では、脳から呼吸筋への指令が出なくなるので、呼吸しようという努力が見られません。このような呼吸努力のない無呼吸や低呼吸が10秒以上続き、無呼吸と呼吸再開を繰り返しているのがこの病気の特徴。

この症候群は比較的まれで、睡眠時無呼吸症候群全体の数%を占めるだけです。中年から高齢者に多く、女性より男性に多いと考えられています。また、心不全や脳血管障害を持っている人にかかりやすい傾向があります。


炭酸ガスの濃度に過敏?

炭酸ガスが決め手のようです

炭酸ガスが決め手のようです

なぜ呼吸中枢の機能に異常が起きるのかは、はっきり分かっていませんが、発症するメカニズムとして2つの仮説があります。

脳の眠りであるノンレム睡眠中には、動脈血の中に溶けている炭酸ガスの量を一定に保つよう、呼吸が調整されています。血液中の炭酸ガスが増えると、炭酸ガスを体から外に出すために、呼吸の回数や量が増えます。逆に炭酸ガスが減ると、呼吸をしなくなります。

この炭酸ガスに対する呼吸の反応が過敏になっていると、血液中の炭酸ガスがわずかに増えても必要以上の呼吸が起こり、その結果、炭酸ガスの濃度が呼吸を止めてしまう程度まで低下して無呼吸が起こる、と考えられています。

さらに、無呼吸によって引き起こされる覚醒そのものが、さらに無呼吸を増悪させる要因にもなっています。健常人でも睡眠中に覚醒すると、眠っていたときに比べて目覚めた直後の呼吸が大きくなります。無呼吸発作によって覚醒したときも呼吸の量が増えるので、血液中の炭酸ガスがさらに減って無呼吸を誘発してしまうのです。


基本的にはイビキをかかないが……

日中の眠気が大きな問題です

日中の眠気が大きな問題です

原発性中枢性睡眠時無呼吸症候群の症状は、閉塞性のそれとよく似ています。無呼吸によって夜の睡眠が分断されるので熟睡感がなく、日中には睡眠不足のため強い眠気を感じます。普通なら居眠りしないような場面でも知らないうちに眠ってしまうこともあります。

夜の不眠や日中の過眠を自覚していない場合もありますが、そんなときでも多くはベッドパートナーや家族から睡眠中の無呼吸を指摘されています。純粋な原発性中枢性睡眠時無呼吸症候群ではイビキをかきませんが、閉塞性も合併していると大きなイビキが聞かれます。

終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)では、ノンレム睡眠中、特にノンレム睡眠のはじめに呼吸の停止と再開が繰り返されます。無呼吸による動脈血中の酸素濃度の低下は、閉塞性のものに比べて軽度です。無呼吸や呼吸再開時に目覚めるため、睡眠が細切れになって深い睡眠が減り、浅い睡眠が増えます。レム睡眠中には、呼吸運動の調節メカニズムがノンレム睡眠中と異なるため、無呼吸はあまり見られません。


治療はまだ手探り状態

治療機器はどんどん進歩しています

治療機器はどんどん進歩しています

まだこの症候群の自然経過がよく分かっていないため、本当に治療が必要かどうかがはっきりせず、有効な治療法も確立していません。

専門の医療機関では、緑内障治療薬のアセタゾラミドや気管支喘息治療薬のテオフィリン、黄体ホルモンのプロゲステロンが処方されることがあります。酸素や炭酸ガスを吸入したり、閉塞性のときにも使われる持続陽圧呼吸療法(CPAP)も行われています。

コンピューターによって呼吸ごとに呼吸量を予測して、不足分を補ってくれる自動調節型の呼吸補助機器 ASV (Adaptive Servo-Ventilation)が、CPAP よりも有効という報告もあります。他のタイプの中枢性睡眠時無呼吸症候群では、側臥位でいると無呼吸が減少するので、原発性中枢性睡眠時無呼吸症候群でも横向きで眠ることが勧められています。

【関連記事】
睡眠時無呼吸症候群の原因とメカニズム
睡眠時無呼吸症候群の症状と検査
睡眠時無呼吸症候群の対策法・治療
 

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