メンタルヘルス/自傷行為・自殺願望

早春に「死にたくなる」人が増えるのはなぜか?

内閣府による「自殺対策強化月間」が行われる3月。早春は、自殺を考える人が急増する季節です。その理由と、その気持ちを鎮めるためのヒントをお伝えします。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

早春に「死」を考える要因とは?

急激に自殺が増えるのが早春。その理由とは?

急激に自殺が増えるのが早春。その理由とは?

早春はストレスを抱えやすい季節。とくに、3月は1年の中で最も自殺率が高い月でもあり、内閣府は「自殺対策強化月間」として、街頭やマスコミなどを通じて大々的な広報キャンペーンを行っています。

キャッチフレーズである、「お父さん、ちゃんと眠れてる?」という言葉をテレビや電車の車内広告で見聞きする人も多いでしょう。自殺の原因となる主な精神疾患はうつ病ですが、この病気は不眠症状を伴うことが多いため、よく眠れているか、疲れていないかと声をかけることが大切なガードになるのです。

では、この早春の時期にどうして「死んでしまおうか……」とまで、精神的に追い込まれる人が増えるのでしょうか。主に、次のような社会的要因、環境的要因があげられると思います。


1.決算期を節目にした倒産、失業

3月は決算の時季。デフレが続く近年では、早春に倒産を迫られる企業、失業を迫られる従業員が増えるため、経済的な問題に直面して出口を失った人が精神的に追い込まれるのがこの時期なのです。

ちなみに、直近の2009年まで自殺者3万人が12年間も続いていますが、その端緒である1998年、一気に自殺者数が増えたのがやはり3月であり、同時にこの時期から失業者数も急増しています。(参考:社会実情データ図録「失業者数・自殺者数の月次推移」)。

ちなみに個人事業主である私も早春には確定申告があり、1年の総決算の時期となります。この不況下では、仕事に精を出しても利益に大きく結び付かない実情を収入額の合計という形で目の当たりにするため、気分が深く落ち込み、不安に駆られる時期です。

平成20年中の自殺者数を調査した警察庁統計によると、自殺の理由として「健康問題」(15,153人)の次に多いのが「経済・生活問題」(7,404人)であり、全自殺者の2割以上に上ります。ただし、自殺を企図するほど精神的に追い込まれている人は、要因が複合的に絡み合っている場合が多いものです。たとえば、「職を失う+突然の生活苦+人間関係の悪化+うつ病の発症」というようなケースです。


2.期末による異動、仕事の打ち切り

長くやってきた仕事が急に打ち切り。明日への不安が高まる

長くやってきた仕事が急に打ち切り。明日への不安が高まる

早春は会社員の場合には異動が決まる時期であり、また契約社員、派遣社員、フリーランスにとっては、突然仕事を打ち切られる可能性が高い時期でもあります。

長年続けてきた職場から、慣れない職場へと異動する不安。とくに、降格の人事を伴う場合には、失意も加わって極度に憂鬱になる人も増えるでしょう。また、派遣社員、契約社員、フリーランスにとっては、長く続けてきた仕事を突然失うことによって、生活や将来への不安が急に押し寄せ、精神状態が不安定になりがちです。


3.ライフイベントの変化

早春は、総じてライフイベントの変化が起こりやすい時季。精神が極度に不安定な状態にあるときに、大きな変化に直面すると非常に強くストレスを感じる傾向があります。

たとえば、子どもが進学したり卒業して就職をするなど、早春には子どもの成長を実感する時期でもあります。そんなとき資金難に遭遇したりすると、「いっそ家族に死亡保険金を手渡せれば」と極端な発想をしてしまう例もあります。また子どもが卒業して自立していき、「親としての役割がなくなる」ことを実感する欠落感、荷おろし感などによって、急に虚無的になることもしばしばあるでしょう。


4.「木の芽どき」の心身変化

よく「木の芽どきには注意しよう」と言われるように、木々に新芽が出る早春の季節は、急激な寒暖差が体にとって非常に大きなストレスになります。これが自律神経のバランスにも影響を与え、疲れがとれない、体がだるいなどの症状を感じやすくなるのです。

もちろん、天候などの環境変化だけでは自殺を考えるほどの要因にはなりませんが、上のような深刻な悩みを抱えていて、さらに季節の変わり目が体調不良を招くと、気分が陰鬱になり、深刻な問題をますます深刻にしてしまうのです。


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