気分が変わりやすい病気、気分循環性障害とは
気分が安定している事は生活の安定に重要です。気分の振幅が大きく、日常的に問題が生じている人は気分循環性障害に用心してください
安定性は生活の色々な面で重視される要素です。例えば、結婚生活には何と言っても安定さが求められ、仕事でも安定した成果を出すと良い評価を受けられるはずです。
安定を損なう原因の一つとして不安定な気分があります。例えば、気分が良い時、妻に遊びに行く約束をして、翌朝、目が覚めると冴えない気分で起き上がる気もせず、「行かないの」と相手に尋ねられて、「放っておいて」と布団をかぶってしまったらどうでしょう?
このような事が繰り返される内に夫婦関係が壊れたり、職を失うといった、大変な事が起きていたら、単なる気分屋さんに留まらず、気分循環性障害と言う心の病気の可能性もあります。今回は気分循環性障害について解説します。
<目次>
気分循環性障害の症状・セルフチェック
気分循環性障害では気分が高揚している軽躁状態と落ち込んでいる抑うつ状態の間を行き来し、躁でもうつでもない普通の状態が、ある一定の期間、具体的には2ヶ月間も続きません。軽躁状態、抑うつ状態ではそれぞれ以下のような症状が現れやすいです。■軽躁状態
- 自信過剰で楽観的になる
- イライラが強く、気が散りやすい
- 怒りを爆発させやすい
- 短い睡眠で十分になる
- 話し出すと止まらない
- 考えが次から次へと湧いてくる
- 羽目をはずしやすい
■抑うつ状態
- 気分の落ち込み
- 興味の喪失
- 睡眠、食欲の変化
- 口数が少なくなる
- 疲れ易い
- 集中力の低下
- 自責の念を感じる
- 死にたい気持ちが生じる
こうした気分循環性障害の症状は、代表的な心の病気の1つ、躁うつ病に類似していますが、症状自体は躁うつ病ほど深刻なものではなく、それが両者の違いとも言えます。また、症状が慢性的に(少なくとも2年以上、若年者では1年以上)続いていて、いわば、本人の気質に近くなっている事も大きな特徴です。
トラウマが関与? 気分性循環障害の原因と経過
気分循環性障害は多くの場合、10~20代の若い年齢から始まります。気分循環性障害の原因として、幼少時のトラウマの関与が示唆されています。トラウマによる悲しみから心を防御する為に、無理に気分を高揚させて悲しみを否認しようとしても、偽りの高揚気分はすぐに本当の悲しい気持ちに変わってしまう(=気分の循環が生じる)といった説で、なかなか説得力があると思います。また、気分循環性障害の原因には生物学的な要素もかなり関わっています。心の病気の要因として脳内での神経伝達物質の働きは重要ですが、これは遺伝子で大まかに決定されている事で、双子や親類の遺伝的な研究から、気分循環性障害は躁うつ病と関連している事も分かってきています。この疾患の経過において、その気分の振幅による症状がより顕著になってしまい、躁うつ病に、いわばレベルアップする場合が、全体の約3分の1程度あります。
気分循環性障害の経過は、気分の振幅への本人の対処の仕方でかなり違いが出てきます。例えば、何か打ち込めるものを持っている人が気分が高揚した軽躁状態の時、長時間エネルギッシュにその事へ没頭して、本人の持つ能力が発揮できたなら、大きな成果が生まれるでしょう。しかし、落ち込んだ時にアルコールに頼ってしまった場合、経過の違いは明らかです。
気分循環性障害の治療法……病院での薬物療法・心理療法
気分循環性障害の治療は躁うつ病に対する治療と同様で、薬物療法と心理療法によって気分の変動に対処していく必要があります。薬物療法によって気分を治療薬の力で安定化させると共に、心理療法を行なうことで、本人が自分の問題を理解し、気分の振幅により効果的に対処できるように導いていきます。もしも気分の振幅が大きく、日常生活で何か問題が生じている時は日記を付けてみることをおすすめします。日記をつけることは、その毎日に起きている問題を見逃さないためにも、そして、その問題と気分との密接な関わりや問題の意外な深刻さに気付くためにも役立つものです。そして、もし仮に精神科や神経科を受診した際には治療する側にとっても、それは大変有用な情報です。気分循環性障害の頻度は人口の約1%程度と推定されていますが、気分の振幅が大きい人は、その100人に1人になっている可能性にはどうかお気を付け下さい。
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