メンタルヘルス/発達障害(ADD・ADHD・自閉症・アスペルガー症候群等)

「自己中」は性格ではなく、心の病気が原因のことも…自己中心性とADHD

【医師が解説】「人の気持ちがわからない」「自分のことしか考えないと言われる」。自己中心的な言動が大人になってからも目立つ場合、程度によってはADHDや自己愛性パーソナリティ障害などの心の病気が原因の可能性もあります。わかりやすく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

「自己中」は性格の問題か……自己中心主義が強くなる心の病気

自己中は心の病気の可能性も…自己中心性とADHD

自己中心は病気の可能性も


我が強くてワガママで、自己中心的。そんな傾向が見られても、子供のうちは、周りの大人もある程度大目に見てくれるかもしれません。しかし大人になってからは、人間関係がうまくいかなくなることもあるでしょう。

ただのワガママでは済まされにくい「自己中心主義」(いわゆる「自己中」)には、実は心の病気が関連していることもあります。今回は、「自己中な性格」と誤解されてしまうこともある症状を伴う病気として、「ADHD」と「パーソナリティ障害」の2つを挙げて解説します。
 

「自己中」は性格ではなく、病気の可能性も…ADHDの特徴・原因

もしも自分が話している時に、相手があまり話を聞いていなかったり、自分の話が終わらぬうちに何か別のことをし始めたら、あまり良い気持ちはしないでしょう。そうした注意散漫や落ち着きのなさは、人間関係において問題を作りやすいものです。対人的な問題以外の自分個人の仕事などでも、その注意散漫や落ち着きのなさから、作業効率が本来のレベルよりかなり低下している可能性もあります。こうした問題は実は幼少時から始まることが少なくありません。

小さな子供が落ち着きなく、いつも動き回っていても、それは半ば当たり前のことです。しかしそれがもし親の手に余るようなレベルになっていれば、少し注意してみる必要があるでしょう。そういった特性が原因で、家や学校で問題が深刻化している場合、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の可能性もあります。

ADHDは決して稀な疾患ではありません。実は子供の数%にはこの診断が付く可能性があるともいわれています。ADHDで現れる問題には、大きく3つのタイプがあります。注意不足、多動性、そして衝動性です。以下に、ADHDで現われやすい問題を、それぞれのタイプごとに、箇条書きします。

■ 注意不足に関わる問題
  • 細かい注意に欠けやすく、ミスをしやすい
  • 気が散りやすく、物事に注意が続かない
  • 会話中、相手の話をよく聞いていないように見える
  • 何かをする前の、その説明をよく聞いていないことで、それができない
  • 手際が悪いので宿題などが苦手で、それゆれにさぼりやすい
  • 勉強しようにも机に鉛筆がないなど、あらかじめの用意が足りない
  • 待ち合わせの時間など、大事な用事をよく忘れる
■ 多動性に関わる問題
  • 座っている時に手足を頻繁に動かしやすい
  • しっかり座っているように言われても、なかなかそれを守れない
  • 落ち着きがなく、いつも動いているように見える
衝動性に関わる問題
  • 相手の話が終わる前に何か言ってしまいやすい
  • 周りの何かを見たときに、ついそれに、ちょっかいを出してしまう
  • なかなか順番を待てない
ADHDのこうした問題は、多くの場合は大人になるとあまり目立たなくなります。しかし一部の方は、上記のような問題の何かが、成人後もある程度続く可能性があります。そのために、日常生活でトラブルを抱えてしまうこともあります。この特性のために、職場での人間関係がうまくいかず、仕事を変えざるを得なくなるような状態になっていれば、深刻な問題が生じているといえるでしょう。

ADHDの原因はまだわかっていませんが、親のしつけなどの環境は発症にはあまり関係ないと考えられています。胎児期の脳の発達段階に何らかのリスク要因があること、具体的には、妊娠中のアルコールの過量摂取やウイルス感染など、胎児の脳の発達にネガティブな影響を与え得る問題などがリスク要因として推定されていますが、まだはっきりとは明らかになっていません。
 

周囲との人間関係が難しい……自己愛性パーソナリティ障害の症状・特徴

自己中心性は場合によっては、パーソナリティ障害の診断が可能なレベルになっている可能性も

自己中心性は場合によっては、パーソナリティ障害の診断が可能なレベルになっている可能性も

程度の差はあれ、誰の心のうちにも自己中心的な面があるものです。自己中心性は言わば人間性の一面ともいえますが、やはり一定のレベルを超えれば、問題心理です。自己中心的な考え方は、他人を尊敬できずに軽んじる気持ちや、自分の能力を過信するような気持ちも起こしやすい面があります。そのため自己中心的な心理が強すぎると、周囲との人間関係も悪くなりがちです。

こうした傾向には、自己愛性パーソナリティ障害が関係している可能性もあります。このパーソナリティ障害では、以下のようなことが問題になりやすいです。

  • 人の批判に耐えられない
  • 自分の夢にとりつかれているように、周りの目には映る
  • 自分は特別な人間だという気持ちが強い
  • 他人からの賞賛や特別扱いを常に望んでいる
  • 人の気持ちを気にかけない、場の空気を読まない人間のように周りには見える
  • 他人の何かに嫉妬する。と同時に、他人は自分の何かを妬んでいるようにも見える
  • 周りの人間を見下すような態度がかなりある
自己愛性パーソナリティ障害の原因はまだはっきりとはわかっていません。考えられる要因の一つとして、幼少期の親のしつけなどが挙げられることもあります。例えば、子供と親との関係が必要以上に近く、いわゆる過保護な状態で溺愛されていた場合、パーソナリティ障害のリスクが高まるのではないかとも考えられています。過保護に育てれば、子供は親から愛されていると安心感を持てると考える人もいるかもしれませんが、少しでも親からの注意が失われると不安を感じ、もっと親から愛情を向けられるよう、もっと完全な自分でいたいという気持ちが強まることもあります。

最後に繰り返しになりますが、今回、自己中心主義と関連するものとして取り上げたADHDと自己愛性パーソナリティ障害は、似ているようで異なる心の病気です。どちらもしつけや育てられ方が原因であるかのようにいわれることがありますが、後天的な環境の関連があるかもしれないのは、自己愛性パーソナリティ障害のみです。ADHDは親のしつけなどは関係がなく、脳内に何かしらの医学的な問題が起きていることが原因だと考えられています。そのため、特にADHDの治療薬は、脳内のその問題に対処し得る治療薬でもあるということを、ぜひ覚えておいてください。

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