長い歴史の中で人類を支え続けてきた「火」

山下満智子
大阪ガス株式会社 
エネルギー・文化研究所 
研究員 山下満智子さん 
スローフード関西理事としても活動されています。
 エネルギーを供給する大阪ガスさんが、なぜこうした調理と脳のメカニズムに関する研究に取り組もうとされたのでしょうか。

山下 当社は、2005年で創業100年を迎えました。当初ガスは、主にガス灯等のエネルギー源でしたが、しだいに調理用のエネルギーとしても利用されるようになりました。

けれども創業時にはどのようにガス火で調理すればよいのかなかなか理解していただけず、ガスを普及するという意味で、料理教室を開催し以来約80年になります。今では子供向け料理教室での食育活動等、長年にわたり料理を通じてお客さまの生活に関わらせていただいてきました。

しかし最近では、食生活の多様化や食の外部化が急速に進み、家庭で調理する機会も確実に減っています。また一方で料理を作ることや、食べるということの本来の楽しさや豊かさが改めて見直され、食育基本法が制定されるなど、食の重要性が話題となっています。

川島教授は、音読やコミュニケーションが、なぜ脳を活性化するかはわからないけれど、私たち人間の遺伝子の中に、これは大切なものとしてインプットされていて、実際にこうした動作をするとスイッチが入るのではないかと仰っています。

創業100周年の記念事業として何に取り組むべきかと考えた時、私は「火」も人類の長い歴史の中で暮らしを支えてきたものであり、何か大切なスイッチの役割を持っているのではないかと考え、単にエネルギーの供給というだけでなく、食文化の活性、食育に貢献したいということで、川島先生にご相談し、今回の研究に取り組むことになったのです。

「調理」は高齢化社会の老化防止に役立つ


 調理をするということは、お買い物などの準備段階から、下ごしらえ、味付け、盛りつけなど、様々なプロセスがあり、その段取りをどうするか考えるのですから、頭は使うだろうと誰でもイメージはあると思いますが、「調理そのものが脳機能を向上する」ということについて、このように科学的な裏付けをとられたのはこの実験が世界で初めてなのですね。

山下 はい。そうです。近赤外線という計測器を使うのですが、調理中は、様々なプロセスで、脳の血流量が増え、大脳の前頭前野といわれる部分が活性化していることを目で確認することができました。また脳機能テストでも、誰もが実験前と後とでは機能性が向上していました。

脳機能の確認テスト
言葉を作り出す前頭前野機能や、思考力機能、総合的作業力などが、すべて実験前よりも向上しています。
現代人は、料理は重要なことは頭ではわかっていても、納得しないとなかなか実践にまで結びつきません。今回の成果を知っていただければ、子どもと一緒に調理することで、家族のコミュニケーションが図れるというだけでなく、発育にも重要だと理解してもらえると思います。

また定年退職後の男性を対象の実験の効果から、高齢になっても脳機能が向上するということや、料理のような日常的な作業が痴呆予防などに役立つことがわかり、高齢化社会に向けて重要な成果が得られたと思います。