ビーンズ!
著 者: レスリー・A・ヤークスほか(著), 有賀 裕子 (訳)
体 裁: 単行本: 148 p
サイズ: 182 x 128
出版社: ランダムハウス講談社
ISBN : 4270000112
発行日: 2004/03/02
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シアトルに実在する一軒のカフェ「エル・プレッソ」(仮名)を舞台にした心温まるビジネス・ノンフィクション。スターバックス、タリーズといった大手コーヒーチェーンが軒をつらねるシアトルで、主人公ジャックと妻のダイアンは簡素なカートからスタートした小さなコーヒー店を25年営んできた。雨の日も風の日も「エル・プレッソ」に行列のできない日はないくらいシアトルっ子のハートをがっちりつかんだ。なぜこの小さな店に毎日大勢の人が列をつくるのか?その秘密はすべての事業を成功へ導き、どんな職場にも活気をあたえる究極の成功法則「4つのPと志」だったのだ。
●今週の選書について
あなたは今の仕事に情熱を持って取り組んでいるでしょうか?仕事と思えないくらい、今の仕事に打ち込めているでしょうか?
これに対する私の答えは、おかげさまで「イエス」です。実は今の私は、けっこうハードワーカーです。1日に18時間ぐらい働きます。
先日も、ある起業家の知人と「我々は、なぜこんなに働くのだろう?」という話になりました。彼の答えがふるってました。「たぶん特に予定がないと仕事をしてしまうからだろう」と言うのです。
確かに、予定がなければ、ふつうは一番したいことをします。彼にとって一番好きなことが仕事なのです。だから油断するとつい仕事をしてしまうというのです。これには私も共感できます。
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このように書くと自慢と取られそうです。おそらく数年前の私なら、そう取ったでしょう。何せ私は、10年以上、仕事にやりがいを求めてさまよってきたのです。
恥ずかしながら、私はサラリーマン時代、会社の仕事が嫌でたまりませんでした。理由は、会社の仕事に伴う、仕事を“やらされている感じ”です。
もちろん、会社の仕事に主体的に取り組むこともできたでしょう。実際、職場の仲間はそうしていました。しかし私には、その能力が欠落していたようです。やりがいを見出すことができませんでした。
主人公ジャックは、自分の、人やコーヒーに対する情熱を職場が受け止めてくれないので、会社を辞めるしかなかったと述懐します。私もやらされ感から逃れるためには、辞めるしかありませんでした。
「会社を飛び出す人は、勇気がある」などと言われますが、本当はこのように、いろいろな理由で会社を飛び出さずにいられなかった、というのが実態のような気がします。
●社員とお客さまの心が、会社から去ってく
本書には、かつてアメリカでも終身雇用が一般的だったことをうかがわせる記述があります。意外に知られていませんが、これは事実です。
70年代前半までは、アメリカでも終身雇用が一般的でした。従業員は、少し前の日本と同じように、一生同じ会社に勤め、退職後は年金で暮らすのが当り前でした。
その後、アメリカの企業は終身雇用を維持できなくなりました。そして今、我々がアメリカ流と呼ぶ成果主義の人事制度が、一般的になったのです。
そのしっぺ返しをアメリカの企業は、今、手痛い形で受けています。それは従業員からでなく顧客からでした。従業員の忠誠心の欠落が仕事の質の低下を招き、結果的に顧客の会社離れを招いたのです。
本書のような、一見極めて当たり前のことをテーマにした本が、アメリカで飛ぶように売れる背景には、このような実態があるのです。
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日本も、グローバルスタンダードの名のもと、リストラ、ベアゼロ、成果主義の導入も進み、終身雇用は崩壊しました。退職金や年金による退職後の保障も危うくなってきています。
これが従業員の不安に結びついています。会社が絶対の安心感を与えてくれなくなった今、社員は会社との一体感、会社に対する忠誠心を失いつつあります。
すでに忠誠心の希薄化は、従業員による顧客情報の流出、内部告発による不祥事の発覚などという形で顕在化してきています。これが、日本の企業でも様々な形で問題を引き起こすようになるでしょう。
経営者は、従業員を甘く見ていると、とんでもない目に遭うと思います。目先の人件費惜しさに、給与カットやクビ切りに飛びつくと、あとで取返しの付かない代償を払わされるでしょう。
そのしっぺ返しは、アメリカのように、顧客の心が会社から去っていくという、最悪の形で現われるかも知れないのです。
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