「それ、私が出しておきましょうか?」
え?
この女性(ひと)、私知らない。
「切手も貼ってあるし、出すだけですよね?」
とっさに言葉が出なかった私に、彼女はそう続けた。親切で言ってくれてるんだ。
待つのは嫌だし、そういう風に言って貰えて嬉しくなかったわけじゃない。
だけど…。
毎日遠回りして、郵便物をポストに入れる。誰にでもできる簡単なこと。
だけど、請求書も、見積書も、社長の会合の出席ハガキも、届かなかったら大変だ。
会社の誰も、郵便物が投函されないなんてことがあるなんて、思ってもいない。
オフィスの決められた場所に、置いていくだけのそれを、届けるのは私の仕事だ。
仕事なのだから、郵便物がポストに消えるまで、責任を持って自分がやらなきゃいけないんじゃないだろうか?
瞬間、そんなことを考えた自分に、少し驚いた。
「ポストに入らなかったんですね」
そんな事までわかってる。
「ええ。失敗しました。口の大きいポストに行けばよかった」
「でも、ここからじゃ遠いですよね」
ポストの場所も知ってる。なんだか可笑しかった。この近くで、同じような仕事してる。きっと同じような目に、彼女も会ってる。だからわかるんだ。
見れば、彼女は、料金別納の封筒がぎっしり入った紙袋を足元に置いていた。
私が彼女にかわってあげることは出来ない。
封筒の中身は商品。確実に届かないと困る。ポストに入れるまでは、私に責任があるだろう。
だけど、私を見て、どういう状況にあるのか読みとって、自分が出来ること(多分自分がして欲しいと思ったことがあること)をためらわず言ってくれた彼女に、ありがとうと言いたい。
もしも、彼女に預けることで、これが届かないようなことがあれば、その責任を取ったっていい、そう思った。
「ありがとうございます。では、お願いします」
封筒を渡すと、彼女はにっこり笑って言った。
「はい。お疲れ様でした」
…
それから数日後、取引先から受領書が届いた。彼女に頼んだ郵便で送った商品のものだ。
先方に届いてないなんて事は、少しも思っていなかったけど、やっぱり気になって待っていた。
嬉しかった。初めて、自分の仕事の結果を、確認できた気がした。
毎日大量の郵便物をポストに入れる、同じくらいたくさんの郵便物が届く。
そんなあたりまえの結果は、あたりまえのことをきちんとやってる人がいるから出るものなんだと、ちょっとオオゲサだけど、そう思った。
(「一般事務」メールマガジン54.55号「コラム」を加筆)
※このおはなしは、実話を元にしたフィクションです
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