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群馬・無届けホーム火災が明らかにした問題(2ページ目)

2009年3月19日、群馬県渋川市で無届けホームが火災で入居者10名が亡くなりました。入居者の多くは都内から移住した生活保護受給者。この事件が語る生保受給者の受け入れ先について考えます。

執筆者:宮下 公美子

生保受給者の生活の場を確保するために

「静養ホームたまゆら」の火災を受けて、横浜市は3月23日に有料老人ホーム類似施設(※)25施設に、一斉立ち入り検査を実施。80%の施設に消防設備等の未設置などの不備があり、改善指導したそうです。非常に早い対応だなぁと感心しましたが、市内の類似施設がたった25施設というのには、ちょっと驚きました。そんなに少ないかなぁ、というのが正直な感想です。

ちなみに、4月1日の毎日新聞報道によれば、無届け有料老人ホームは全国で579施設。東京都には全国最多の103施設、神奈川には60施設があるとのことです。

横浜市ではありませんが、私が以前、介護保険の認定調査を行っていたある自治体では、相当数の「有料老人ホーム類似施設」がありました。「賄い付き高齢者アパート」やら「ケア付き住宅」やら、正直言って非常に怪しい施設ばかりです。民家やビルを改造し、3~4畳の個室に生活保護受給者を中心とした要介護者1名ずつが暮らし、食事、入浴のほか、排泄介助などが、日中常駐しているヘルパーにより提供されている、という形式がほとんど。

施設に常駐しているヘルパーに聞くと「随時、必要に応じてオムツを交換したり、買い物に行ったりしている」と言います。しかし責任者に話を聞くと、「ケアマネジャーのケアプランに従って訪問介護を提供している」と、介護保険の枠内でやっているかのような話をします。

当時の上司には、こうした施設は実態把握が必要だし、要注意だと報告したのですが、それ以上のことはできませんでしたし、しませんでした。入居している多くの生保受給者が、「ここに入れて本当によかった」「生活がすごくよくなった」「風呂に入れるようになった」等々、うれしそうに話していたからです。

前に書いたとおり、必ず利用料を徴収できる生活保護受給者は、こうした施設にとっていいお客さんなのだと思います。中には、保護費を利用料として取り上げて、わずか数千円の小遣いしか本人に渡さないという、悪徳業者がいると聞いたこともあります。そこは、生保ワーカーが間に入り、受給者の権利を擁護する必要があると思います。

しかし、本来、こうした生保受給者が入居できるはずの養護老人ホームや救護施設は極端に数が少なく、行き場のない、暮らしていけない人たちは町にあふれています。その人たちが民間の力によって、ある程度以上の生活と介護を保証されている(少なくとも私が見た施設は)のを見ると、こんな施設は違法だ、基準違反だ、倫理上問題がある、といって閉鎖してしまうほうが、はるかに行き場のない人たちを不幸にするのではないかと思うのです。

マスコミはこうした施設を「劣悪な環境」と表現しています。たしかに、いい環境だとは言えません。しかし、こうした施設にすら入れず、もっと劣悪な環境下で暮らしている人たちもたくさんいます。そうした人たちも含めて、何とかケアできる場を整えることはできないのか。

「生活保護受給者向けケア付き住宅」という類型でも新しく設けて、有料老人ホーム運営基準よりは最低基準を緩やかにし、届け出制できちんと監視できる仕組みを作った方が、現実的ではないかと思います。

しかしその場合には、公費助成でスプリンクラーは必設置。「静養ホームたまゆら」も、複雑な構造、夜間宿直1名であっても、スプリンクラーさえあれば、10名もの命は失われずにすんだのでは、と思うのです。

規制ばかりせず、現実に即した解決を考えていかなくてはならないのではないか。最近、この件に限らず、いろいろな場面でそう感じています。

※有料老人ホーム類似施設…サービスの内容等が老人福祉法に基づく「有料老人ホーム」の形態に合致しているが、現在神奈川県に対し届出を行っていない施設
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