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群馬・無届けホーム火災が明らかにした問題

2009年3月19日、群馬県渋川市で無届けホームが火災で入居者10名が亡くなりました。入居者の多くは都内から移住した生活保護受給者。この事件が語る生保受給者の受け入れ先について考えます。

執筆者:宮下 公美子

火事
「静養ホームたまゆら」の火事では10名のかたが亡くなった

他県に送り込まれた
生活保護受給者

2009年3月19日深夜、群馬県渋川市にある「静養ホームたまゆら」で火事があり、入居者16名中10名が亡くなりました。「静養ホーム」とは聞いたことのない名称ですが、実態としては食事や生活上の世話を提供している有料老人ホームでした。もっとも、このホームを運営していたNPO法人理事長は、入居者の年齢制限はしていないと話しており、群馬県としては「もっぱら65歳以上の高齢者を入居させる」と規定されている有料老人ホームとしては把握していなかったようです。

このホームは、報道でもすでに取り上げられていますが、様々な問題がありました。
  • 実態としては有料老人ホームだが届け出が出されていなかった
  • 都内から生活保護受給者が管轄の移管手続きをしないまま移住していた
  • 移住させた都内の生保ケースワーカーは施設の運営実態を把握していなかった
  • 施設は届け出なしに増改築を繰り返し、複雑な構造となっていた
  • 別棟の3棟が連なる構造だったが、夜間の職員は宿直者1名のみだった
  • 設置義務がないことからスプリンクラーはなく、消火設備は消火器1つだった
  • 夜間徘徊する認知症者1名は、外から鍵をかけられ部屋に閉じこめられていた
  • 曲がりくねった廊下には不要の家具等が置かれ、避難の妨げになっていた
  • 引き戸の一部に棒が立てかけられ、外に出られないようにしてあった
…等

今、報道で大きく取り上げられ、問題視されているのは、都内からこうした近県の無届け施設に多数の生活保護受給者が移住させられていること。たいがいは生活保護管轄の移管手続きをせず、つまり都内の自治体から生活保護を受給しながら、暮らしているのは近県の施設というケースです。

生活保護は、保護した自治体が生活保護費の一部を負担し、支援を行う「居住地保護」の原則があります。その原則からいえば、実質的な支援ができるよう、自治体内で生活保護受給者を受け入れてくれる施設を見つけなくてはなりません。しかし受け入れ施設が不足しているために、都内の自治体ではこうした「他県送り込み」が増えているのです。

都内の生活保護担当課には、「静養ホームたまゆら」のような関東近県の施設から「他県からの入居者受け入れ可能」という「営業」が数多くある、という話も聞いたことがあります。施設側にすれば、公費(生活保護費)で利用料が払われ、安定収入が見込める生活保護受給者は、「いいお客さん」なのでしょう。

「静養ホームたまゆら」に15人を送り込んでいた東京・墨田区は、入居時にホームの様子を確認はしたそうですが、その後は年1回訪問するのみでした。上に列挙した様々な問題のある施設だったことなど、もちろん、把握できていなかったと思います。しかし、把握できていたとしても、果たして墨田区に何ができたでしょうか。

全くの管轄外であり、施設に対して改善指導などする権限はありません。ようやく受け入れてくれる施設を見つけたのに、ここは問題だからとほかを探して移すことができたでしょうか。こうしたことから、「他県送り込み」は、生保受給者の生活実態を把握できず、適切な支援も行えないため望ましくないと言われています。

今は、生活保護受給者を他県に移住させたら管轄も移管するという原則通り行うよう、指導が進められているそうです。しかし、これまで移住を受け入れてきた自治体は、生活保護費は送り込んできた自治体が持つ、ということで移住を受け入れています。住民票を移動されれば、生活保護費で財政負担が増大しますから、今になってそんなことを言われても、とうてい受け入れられるはずはありません。

果たしてどのような解決策があるのか。非常に難しい問題です。

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