外観
世田谷区立きたざわ苑。報告会には100名を超える参加者が詰めかけた
ガイド記事「日中オムツ使用ゼロの取り組み」では、2009年2月11日に開かれた、東京・世田谷の特別養護老人ホーム、区立きたざわ苑の「日中オムツゼロ達成報告会」から、日中のオムツ使用ゼロを達成した介護職の取り組みについて紹介しました。今回の記事では、オムツゼロを実現するための重要なポイントである、看護チームによる「下剤廃止」の取り組みを紹介。さらに、「日中オムツゼロ」の意義と現実的なメリットについて考えてみます。

便秘が続けば下剤投与は当たり前だった

高齢者が排便コントロールのため、下剤を服用しているケースはよく耳にします。きたざわ苑でも100名の入所者のうち、66名が何らかの下剤を飲んでいたとのこと。医療の現場では、これまで3日排便がなければ便秘症とし、下剤を飲むのは当たり前だったから(現在、高齢者については、排便が5日ないと便秘症と見なされるそうです)。

きたざわ苑の看護チームも、便秘が続けば下剤を追加し、何が何でも出す、という姿勢だったとのこと。下剤の頻回な使用により、便は軟便、水様便で、便失禁が多く、オムツを使用せざるをえない状況でした。当時を振り返って、看護チームからは「健康管理の観点から排便そのものが目的となっており、下剤を飲む利用者の立場に立っていなかったかもしれない」との言葉もありました。

2008年9月に施設長から「オムツゼロ宣言」が出され、きたざわ苑で日中オムツゼロに向けた取り組みがスタート。看護チームは、下剤を廃止したいと考えたものの、果たして下剤を止めて身体に異常は出ないのか、不安になったと言います。そこで、入所と同時に下剤を中止しているという介護老人保健施設「ラ・サンテふよう」(静岡県三島市)を見学。下剤中止の重要性と方法論を学んだことで、「やってみよう」と思えたそうです。

一気に66名中60名の下剤を中止

まずは配置医3名の協力を得て、下剤を使用している66名中60名の下剤を中止しました。報告会において、看護チームからは「医師の協力のおかげで」という言葉が何回か聞かれました。確かに下剤中止に理解を示し、一気に60名もの下剤中止に協力した医師にとっても勇気のいる決断だったと思います。医師も看護師も専門知識があるからこそ、これまでと違うやり方に取り組むのは簡単なことではなかったことでしょう。そこを乗り越えたところに、施設全体の強い決意を感じました。

看護
下剤を中止したあと、9日間排便がなかった方もいたという。看護チームも忍耐と勇気が必要だったと思う
看護チームは下剤中止と同時に、自然な排泄を促す「排便ケアマニュアル」を作成し、職員への教育を行いました。また、排便回数や時間帯、便の性状、水分摂取量、食事形態などの項目について、「現状」「あるべき姿」「ケア内容」「結果」を記入する「排便ケアアセスメント表」と、便秘日数、水分量、食事、活動などの項目について、「目標」「毎日のチェック」「次週の課題」「コメント」を記入する「排便ケアチャート」を作成。1,2週間ごとに評価や再アセスメントを行い、ケアを見直していきました。

また、下剤を中止するとともに、食事、水分、運動にも気を配り、ファイバー(1日15g)、オリゴ糖、センナ茶などを併用。便秘時には下剤ではなく、ファイバー、水分、運動量を増やすことで対応したとのこと。こうした試みを続けて、利用者個別の排便リズムを把握するとともに、「下剤廃止検討委員会」を開催。介護、看護、リハビリ、栄養の職員が集まり、排便困難な入所者にどう対応するかなど、問題点についての検討や援助方法等の意思統一を図ったそうです。

下剤を廃止する前の2008年10月と廃止した後の2009年1月を比較すると
  • 下剤使用者数 66名 → 4名
  • 浣腸使用数(月)215回 → 101回
  • 普通便 18.6% → 81.4%
  • 軟便・水様便 84.7% → 15.3%
  • 排便周期 2.5日 → 3.5日
となりました。

看護チームが驚いたのは、下剤を止めても、利用者の健康に異常はなく、排便周期もたった1日しか違わなかったこと。「これまで、不要なかたたちに下剤を飲ませていた」と感じたそうです。また、この下剤廃止により、看護チームは便秘の一因ともなっている精神薬や睡眠薬の廃止にも意識が向かうようになったとも話していました。