依頼を受けたら必ずメモ
山田さんはショートの利用を3ヵ月前に頼んだと言い、Aさんは聞いていないと言っています。こうなると水掛け論で、どちらの言い分が正しいかを判断するのは困難です。しかし気になるのは、山田さんが「また忘れてる」と言っていること。これは以前にも、こうした連絡の行き違いがあったということです。であれば、行き違いが起きた原因を突き止めて、二度と起こさない仕組みを作る必要があります。依頼を受けたら必ずメモするノートを作る。3ヵ月先の予定であれば、翌月のケアプランを渡すときに、前月、受けた依頼をメモ書きにして一緒に渡す。そうした取り組みをしつつ、イレギュラーな依頼については、顧客の側からも再確認の声掛けをしてもらうようお願いするなど、言った、言わないにしないための工夫が必要です。Aさん、そういう工夫をする努力がちょっと足りないかも……。
介護家族の気持ちには十分配慮
田中さんのような入退院を繰り返す利用者を担当すると、サービスを入れたり断ったりする手間が多く、Aさんはたいへんだと思います。しかし負担は、当然、家族のほうがずっと大きいはず。まずは、利用者本人、そして家族をいたわる言葉がほしいものです。もちろん、基本アクションであるサービス中止はモレなく行わなくてはなりません。山田さんには「また忘れてる」と言われ、田中さんにも「レンタル中止にしてくれなかったから」と言われているAさん、ちょっとうっかり者なのかも……。
ケアプランの月内承認は基本
ケアプランに見直しが必要な利用者と、必要性が少ない利用者がいるのは事実です。しかし、翌月のケアプランを前月のうちに説明してほしい、提供されたサービスと効果を評価してプランを見直してほしい、と利用者や家族が求めるのは当然のこと。中村さんの言っていることは、介護保険制度上、ケアマネジャーに求められていることそのままであり、正当な要求ですよね。にもかかわらず、中村さんを「うるさい息子」と言っては、息子さんがちょっと気の毒。たとえ要介護5、寝たきりで状態変化がほとんどなくても、家族が毎回ケアプランの見直しと説明を求めるなら、それには応えていく義務があります。原則論ですべてやっていたら回っていかない。Aさんのそんな言い分が聞こえてきそうですが、忙しさは制度上求められている義務を果たさなくていい理由にはなりません。たとえ、制度に不満があっても、決められている以上はきちんとやらないと。制度の不備は、利用者の責任ではないですものね。
ヘルパーの質の向上のため、時には苦言を
鈴木さんが嘆いているヘルパーの失敗。嘘みたいですが、実はこれらはすべてガイド宮下が聞いた、実際にあった話です。こんなヘルパーが来たら、みなさんだってイヤですよね。しかし、残念ながら、こうしたヘルパーでも、職を失わずに仕事を続けているのが実態です。Aさんが訪問介護事業所に苦情を伝えると、所長は口では詫びるものの、まったく改善されません。人手不足のため、辞められては困るから、所長もヘルパーにあまり強くは言えないのです。Aさんが何度か苦情を言うと、逆に「じゃあ、うちはもう下りるから他を当たってよ」と言われてしまう始末。これまでには鈴木さんが直接、ヘルパーを叱って、「もうあそこには行きたくない」と、ヘルパーに言われてしまったこともあり、事業所と利用者の間に入り、Aさんも苦労しています。
しかし、このような失敗をしておいて反省のないヘルパーは、どう考えても報酬をもらってサービス提供するレベルに達していません。Aさんには、訪問介護事業所の所長に対して、ヘルパーの質の向上を粘り強く求めてほしいところです。とはいえ、悲しいことに、「そんなにしつこく言うなら、もうあなたからの仕事は受けない」なんて言われることもあるので、言い方には気を遣いますよね……。
こうしてみると、顧客の愚痴をこぼしていたAさんにも、ちょっと反省すべきところがある様子。
たしかに、誤った権利意識を持つ利用者がふえて、許容できない要求やピント外れのクレームも多々あると思います。はっきりと要求を伝えてくる顧客の中には、弁が立ち、サービスの不足についてあれこれ論理的に指摘してくる顧客もいると思います。しかし、原則論どおりのサービスを求める「正論」の顧客に、「うるさい」「面倒」というレッテルを貼ってしまうのは考えもの。
そういう顧客とのおつきあいは、ちょっと気を遣いますが、そういう人こそ、いいサービスを提供し、上手につきあえば一番の味方になってくれることもあります。
顧客について愚痴る前に、Aさんは自分の仕事に不足はないか、ちょっと振り返ってみるといいかもしれませんね。