来日後は事実上ノーチェックか
なぜこんなことが起きたのでしょうか。この研修・実習制度は、「国際研修協力機構」が制度支援団体として、実習生を受け入れた企業をおおむね受け入れ6ヵ月後から巡回訪問をして実態調査を行うことになっています。しかし巡回調査を行う駐在事務所は全国にわずか18カ所。北海道や東北エリアには、それぞれ1カ所ずつしかありません。各駐在事務所の職員は2名から多くて5名。国際研修協力機構の能力開発部に聞くと、「受け入れ企業の数が多くなった今、調査に行くのは2~3年に一度」と言います。事実上、ノーチェックに近い状態ではないかと思いました。
「目に余る違反は入国管理局や労働基準局に通報する」という言葉は建前のように聞こえた |
では入国管理局はしっかりチェックしているのでしょうか。
入国管理局に話を聞くと「積極的に実態調査は行っているが、頻度や方法については調査活動に支障が出るためお話しできない」とのこと。
どの程度の調査を行っているのかは聞くことはできませんでした。しかし入国管理局が担当しているのは、当然、研修・実習制度で入国する外国人だけではありません。目の行き届く範囲も限られてしまうのではないでしょうか。
フィリピン人介護士受け入れで同じ問題は起きないか?
この研修・実習制度は、フィリピン人介護士とはまったく違う制度です。しかし、現時点で発表されている受け入れ体制には類似点があります。まず、受け入れ窓口機関。
研修・実習制度は、厚生労働省、法務省、外務省、経済産業省、国土交通省の5省協同管轄の外郭団体「財団法人国際研修協力機構」が適正で円滑な推進機構を担っています。一方、フィリピン人介護士受け入れでは、厚生労働省の外郭団体である「社団法人国際厚生事業団」が受け入れを担当します。
受け入れ後はどちらも巡回調査に行くことになっていますが、研修・実習制度で調査に当たるのはごく限られた人数の地方駐在員。一方、フィリピン人介護士受け入れの国際厚生事業団も、現在の人員はわずか16人。どれだけ増員して受け入れや調査の体制を組むのかが気になります。
研修・実習制度では、国際研修協力機構に調査権限はあっても処罰権限はないため、規定違反を見つけても改善指導を行うのが精一杯。せっかくの調査がこの制度の適正で円滑な推進に生かされていません。フィリピン人介護士受け入れの国際厚生事業団が処罰権限を持つかどうかなど、受け入れ詳細は決まっていませんが、「処罰権限を持つのは入国管理局と労働基準局なのに、(外郭団体である)我々が処罰することは立場上できない」(国際研修協力機構の担当者)という言葉から推察すると、国際厚生事業団にも処罰権限が与えられることは考えにくいと思います。
となると、受け入れたフィリピン人介護士が適正な労働条件で雇用されているかどうかの調査はされても、適正でなかったからといって是正される可能性は低いのではないか、という懸念が残ります。
>>次は「みんなで監視し、世論で動かすしかない」