訪問介護で提供できないサービスは?
まず買い物。いつも買い物に行くスーパーでの買い物はOK。しかし、年に1度でいいから食べたい、虎屋のようかんを隣町のデパートで買ってきて、という依頼は受けられません。日常生活の支援に当たらないからです。次に食事の支度。80歳だけれど元気で要介護認定も受けていない夫と二人暮らしの女性のホームヘルプに入った場合、80歳の夫が自分でご飯を作れなくても、ホームヘルパーは女性の分しか食事を作れません。このホームヘルプは女性が利用者であり、夫は介護保険利用者ではないからです。誰にも食事を作ってもらえない80歳の夫の食事はどうなるのか、という視点は介護保険にはありません。ホームヘルパーは家政婦ではないからです。
部屋の掃除も同じ。主に利用者が過ごしている部屋の掃除はできますが、夫も利用者も自分では掃除ができなくても、食事の支度と同じ理由で夫の部屋の掃除はホームヘルパーにはできません。
誰も付き添いがいない状態で、病院での待ち時間に具合が悪くなったらどうするのだろう? と疑問に思うが……。 |
薬を飲む手伝いは、医師から処方された薬は飲む手伝いをしてもかまいません。しかし、市販薬を飲む手伝いはNG。たとえば、カゼ気味だから風邪薬のパブロンを飲みたいと言われても、ホームヘルパーはそれを飲む介助はできないのです。ただ、これは介護保険の規定ではなく、医師法、看護師法の解釈により、市販薬を医学的知識のないホームヘルパーが飲ませるのは適切ではないという判断によるものです。
他にもまだまだ、できないことはいろいろあります。
たとえば、ペットの世話。庭の草むしり。正月のおせち作り。鉢植えへの水やり。年末の大掃除。窓ふき。床のワックスがけ。
独居で他に水やりをする人がいないとしたら、鉢植えは枯れてしまいます。えさをやる人がいなければ、ペットは死んでしまうでしょう。窓辺の花が心をいやしてくれる、ペットだけが家族、と思っている高齢者だったら? ほんとうに水をやらずに枯らしても、えさをやらずに死なせてもいいのか? そんなふうに悩んで、こっそりペットにえさをやり、植木に水やりしているホームヘルパーは実は多いのではないかと思います。でも、それは介護保険制度上は、NGなのです。
このように、介護保険で提供される訪問介護サービスは、便利なようで実は不自由な面も多いもの。しかし、介護保険は「要介護者」の「介護」を社会全体で支える制度です。自立した人も含めた「高齢者」の「生活全体」を支える制度ではありません。そのために、こうした細かい規定があるのです。そう考えると、不自由な面があるのも、当然なのですね。
安価な有償ボランティアが全国津々浦々で展開され、介護保険でカバーできない、80歳の夫の食事づくりや部屋の掃除を担える体制が整うのが、理想的な姿なのかもしれません。