文書を持参し出向いて改善点を指導
苦情の申立を受けた国保連は、申立者と面接を行い、苦情の経緯や利用者の状態、事実関係等を聞き取ります。「このとき、申立者、利用者の承諾を得て自宅に伺って話を聞くこともあります。特に訪問介護事業所への苦情の場合、サービス提供の現場は利用者の自宅ですから、できるだけ自宅や利用者の状況等も把握しておきたいと考えています」(高橋さん)。次に、申立者や利用者から聞き取った苦情の内容をもとに、事業者に対して契約内容や苦情に関わる事実関係を尋ねる調査書を送り、文書での回答を求めます。回答を得たら国保連の相談調査員が事業所を訪れ、回答内容の不足部分などを口頭で聞き取り、また事故の現場などを確認するといった調査をします。東京都国保連では、この現地調査の際、区市町村の担当者に同行してもらっているとのこと。
「国保連は第三者機関であるため、苦情対応の完了後、必要に応じた継続的な事業者指導等は区市町村にお願いすることになります。スムーズに対応してもらうためにも事情を把握しておいてもらう必要があり、区市町村の担当者に現地調査と、事業者への指導の際には同行してもらっているのです」(森高さん)。
東京都国保連の苦情対応をまとめた資料と苦情申立書。白い冊子(苦情相談白書)は、国保連だけでなく、各区市町村で対応した苦情も含めた東京都全体の苦情の資料となっている |
現地調査が終わると、調査結果を文書にまとめます。まとめた文書は、社会福祉専門の大学教授、医師、弁護士、福祉行政関係者など、6人の苦情処理委員(※平成20年度)で構成される苦情処理委員会で審理。委員から教示を受けて文書を仕上げます。
調査結果から導き出された指導・助言は、運営基準に則って基準を満たしていない部分を指摘する内容になっています。しかしすべての苦情を、運営基準を以て指導できるわけではありません。基準はクリアしていても指導が必要と思われることなど、細部については委員会での審理だけでなく、苦情処理委員の専門分野に応じ、各苦情処理委員の教示を受けるそうです。
事業者への指導の際は、東京都国保連では、相談調査員と森高さんや高橋さん、そして区市町村の担当者が事業所に行って、担当者に直接、伝えるとのこと。てっきり文書で指導内容を伝えるものだと思っていたので、丁寧な対応だと感じました。
「指導といっても、ただ、ここがよくなかった、と一方的に指摘するわけではありません。事業所の取り組みのいい点、十分な取り組みができている点は評価し、ここをこうすればもっとよくなる、という伝え方をしています」と高橋さんは言います。こういう指導であれば、事業者も受け入れやすそうです。「実際、事業者は指導・助言を真摯に受け止めてくれますね。専門家である苦情処理委員からも的確なアドバイスを受けて導き出した、妥当な内容だからだと思います」(森高さん)
この後、申立者にも面談して調査結果と指導・助言の内容を伝えます。申立者への報告においては、「時には不満を訴えられることもある」と高橋さんは言います。
「申立者には申立を受理する際、本会の苦情対応はサービスの質の向上のための指導・助言を行うためのものであり、必ずしも事実関係を明らかにすることや事故などの責任を明確化することを目的としていないことはお話ししています。それでも、報告を聞いて『こんな内容では不十分だ』とおっしゃるかたも中にはいますし、そうおっしゃる気持ちもわかります。しかし本会としては、受理した苦情を次への改善につなげていくことを主眼としています。そのことを改めてお伝えし、ご理解をいただくようにしています」(高橋さん)
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