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苦情を質の向上に生かす国保連の指導(3ページ目)

国民健康保険団体連合会をご存じですか。介護保険サービス利用者からの苦情を受け、事業者に質の向上のための指導・助言を行っている第三者機関です。その介護保険サービス苦情対応について取材しました。

執筆者:宮下 公美子

苦情の原因の多くは説明不足

東京都国保連で最近多いのはどんな苦情かを尋ねたところ、「ショートステイとデイサービスの苦情がやや増えていますね」と高橋さん。

アセスメントに十分な時間が取れないショートステイでは、利用者の状態把握が不十分で事故が起きてしまったり、自宅と施設での利用者の状態のギャップを家族が認識していないために、対応が不適切だという苦情につながったりすることがあるそうです。一方、日中だけ滞在するデイサービスでは、職員が気づかないうちにけがをしていたり、あるいは気づいても連絡が遅れて、自宅で利用者を迎えた家族が先に気がついたり、といったことで苦情になるケースが目につくとのことでした。

「ショートステイ、デイサービスに限らず、苦情の背景にあるのは多くの場合、説明不足なんです」と森高さんは言います。
「十分なサービスを提供していても、説明が足りなかったために苦情になってしまうケース。事業者は説明をしたと言うけれど、利用者は聞いていないというケース。こうしたケースが非常に多いですね」

では、苦情にしないためにはどうすればいいのでしょうか。
「利用者に合わせて、話を聞きやすいタイミングでわかりやすく説明することですね。たとえば事故が起きてしまった場合、気持ちが高ぶっている家族に事故の説明をしても、そのときは耳に入らないかもしれません。どのようなタイミングで話をすれば聞いてもらえるか、どのように説明すればわかりやすいかを、利用者や家族の状態をよく見て相手の立場になって考えることです」(高橋さん)

また、普段の介護の様子をできるだけ見てもらう工夫をするのも一つの方法だ、と森高さんは言います。たとえばデイサービスに家族を招き、普段の様子を撮影したビデオを流して、利用者がどのように過ごしているかを見てもらうといった方法。こうしたことで、利用者が自宅にいるときより歩行が不安定だ、あるいは食事に時間がかかっているなど、家族がギャップに気がつくチャンスを作るわけです。

「事前に一度も見学しないまま、施設やデイサービスの利用契約をしている家族も、中にはいます。そうした家族ほど、事故が起きたとき、納得しにくいものです。だからこそ普段から、家族に利用者の施設での姿を見ておいてもらう努力が、事業者には必要だと思います」(森高さん)

難しい要求に応えることで対応力を養う

一方、高橋さんは、ギリギリまで行き届いたサービスを提供していながら利用者の要求に応え続けるのが困難になり、もう限界、と、十分な説明をせずに事業者側から契約を解除して苦情になるケースも気になると言います。
「調査をすると、頑張ってきた経緯がよくわかるだけにもったいないと思いますね。利用者の中には、確かに対応が難しいかたもいます。そういうかたへの対応については、早い段階で保険者や地域包括支援センターに協力を求めて、事業者だけで抱え込まないことも大切だと思います」(高橋さん)

最近は利用者も権利意識が高まってきています。中には、事業者に過大な要求をする利用者もいるのではないか、そうした利用者に対しては指導しないのか、と聞いてみました。
「確かにそういうこともあると思います。しかし国保連は利用者に対しての指導はしません。事業者からすれば理不尽と思えることもあるでしょう。しかし、そうした難しい要求にもどのように応えていけば苦情にならないかを考えることは、事業者にとって必ずプラスになると思うのです」と森高さん。

確かに、難しい要求にも対応できる力がつけば、おおかたの要求には上手に対応できるようになるでしょう。そうした対応力がつけば、苦情も少なくなりそうです。とはいえ、日々、忙しい中でサービスを提供している事業者にとって、苦情を糧にしてサービスの改善につなげていくのは容易ではないという気もします。つい、面倒な問題からは目をそらしたくなってしまいそうですが…。

「利用者・家族からの申し出を面倒な問題と放置し、いったん苦情がこじれてしまうと、その解決に多大な時間と労力を費やすことになります。苦情が訴訟に発展すれば、金銭的に大きなダメージを受ける可能性もあります。ですから事業者のみなさんには、苦情の芽に気づいたらできるだけ早い段階で対応してほしいのです。大きな問題にならないうちに解決するほうが、結局、事業者にとってもメリットが大きいことを理解してほしいですね」と森高さん。なるほど、その通りだなぁと納得です。

ある施設の苦情対応担当者は「苦情は宝の山だ」と言っていました。
苦情の中には、サービスや事業所の仕組みを改善していくヒントがたくさん隠されているからです。

懸命にサービス提供をしているのに、思いも寄らない苦情を受けたときには腹が立つこともあるでしょう。問題を感じつつ忙しさのあまりそのままにしていたことが事故の原因となったら、申し訳なさから逃げ出したくなるかもしれません。しかし、苦情をきっかけに立ち止まり、問題としっかり向き合うことでその問題は改善、解決に向かいます。森高さんの言葉にあるように、苦情にしっかり対応していくことはサービスの質の向上につながり、事業者にとってもプラスになります。そして、時間的、精神的、経済的にもメリットが大きいのです。

そのことを、みなさんには改めて意識してほしいと思います。

※国民健康保険団体連合会は各都道府県により、苦情対応の方法等に違いがあります。ここで紹介しているのは、東京都国民健康保険団体連合会の苦情対応であることを改めてお伝えしておきます。

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