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堀田聰子さん・サービスの質の評価軸確立を(2ページ目)

シリーズ記事「介護サービスの質の向上」第2弾は、東京大学社会科学研究所特任准教授・堀田聰子さん。経営者、中間管理者、介護職一人ひとり、行政、それぞれの立場で取り組んでいくべき課題について伺いました。

執筆者:宮下 公美子

働きやすい職場作りには経営者のあり方が重要

堀田さんはまた、質の高いサービスを安定的に提供していくためには、働く人が満足できる、魅力ある職場を作っていくことが前提になると訴えます。そのために重要なのは、まずは経営者のあり方。経営理念、事業戦略、コミュニケーションをポイントに話してくれました。

「介護労働安定センターの調査※によると、介護職の多くは『働きがい』を求めて介護の仕事に就いています。入口でお金や時間より働きがいが圧倒的に上位にくるのも特徴的ですが、もうひとつ注目すべきは前の介護事業所を辞めた理由。待遇や人間関係、自分や家庭の事情といった他業界でも見られることに加えて、『法人や事業所の経営理念や運営のあり方に不満があったため』が上位にあがってきます。『理念』という言葉が一職員から出てくることは、ほかの業界ではあまりありません。まず、介護事業の経営者には明確な理念が求められているということです。

経営者には、自分なりにあるべき介護の姿を探り続ける高い志を持った介護職が多いことを意識したアプローチが求められます。自分なりの理想を持って介護に取り組んでいる人たちに対して、経営者が抱く理念を語り、浸透させていく。その理念と、一人ひとりが思い描く介護を関連づけて育てていくことができれば、モチベーションは上がります。もっと職員に向かっても介護の理念、経営理念を発信してキャッチボールをしてほしいですね」
※介護労働安定センター(2008)「介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書」より

確かに「介護理念」という言葉が、介護の現場ではよく聞かれます。他業界との比較を意識したことはありませんでしたが、堀田さんの指摘通り、他業界では聞かない言葉です。一職員が理念をもって、仕事に当たっている業界とは考えてみるとすばらしいですよね。

明確で具体的な理念を外にも内にも語る経営者が増えれば、その理念のもとに人が集まり、理念に基づいたサービスが提供されていくはずです。堀田さんはまた「経営者が掲げている理念と現場で提供されているサービスに矛盾がないことが大切」とも語っていましたが、理念が現場の隅々にまで浸透していくことで、提供されるサービスの均質化が図れることを堀田さんは指摘していたのだと思います。

つづく事業戦略について、堀田さんは、経営の専門家ではないので明確な答えを持っているわけではありませんが、と言いつつ、方向性を示してくれました。

「理念を示すだけでなく、その理念を実現できる事業戦略を組み立てる力ももちろん重要です。介護保険事業だけをとっても効果的な事業の組み合わせがあるはず。介護保険外の介護関連事業、介護以外の事業をどう展開するかも腕の見せどころでしょう。さらに一つの事業でどれだけの事業所を展開するか。一事業所の規模はどれぐらいにするか。利用者からみても魅力的で使いやすく、職員からみても経験できる仕事の幅やキャリアの可能性が広がる経営モデルが蓄積されていくとよいと思います。もちろん、大規模多角化だけが答えではありません。小規模でなくては効果が発揮されない事業もあります。経営者の考え方・やり方次第ですね」

様々なサービスを持つ事業所におけるキャリアアップについては、次回の記事でもまたふれてみます。

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