温泉付きマンションの死角が露呈する |
ところが、同社が分譲した温泉付きマンション「アパガーデンコート綾瀬」(総戸数77戸)で、基準値を大幅に上回るレジオネラ属菌が検出されていたことが、足立保健所の調査で明らかになりました。報道によると、国が定める指針の最大8900倍のレジオネラ属菌が検出されたそうで、居住者の方にとっては不安材料となってしまいました。幸い、健康被害が報告されていないことが唯一の救いですが、はたして温泉付きマンションの衛生管理方法はどうなっているのか?……今回は、独自情報によりその内情をご紹介したいと思います。
宮崎県では7名の死亡事例が報告 レジオネナ菌感染
今回、一連の騒動で再び注目されたのが「レジオネラ属菌」です。レジオネラ属菌とは、湿った土壌や河川など自然界に広く生息する細菌のことで、空調冷却水や加湿器・給湯施設など、われわれの身近なところに存在しているといわれています。主に乳幼児や高齢者、病人などの抵抗力が低下している人が吸い込むと肺炎を引き起こす危険性があるそうで、事実、宮崎県日向市の温泉施設では2002年7月、レジオネラ菌による集団感染で7名の死者が出てしまいました。細菌をろ過する装置がきちんと衛生管理されておらず、また、管理者側の意識や知識が不十分だったことが、被害を拡大させてしまった要因とされています。
レジオネラ菌は決して病原性の強い細菌ではなく、健康な人であれば感染しにくいと言われています。また、ヒトからヒトへの感染も起こりにくいそうで、アパのマンションで被害者が出ていないのも、こうした菌の特性によるところが大きいようです。しかし、とはいえ住民にとっては大問題です。単なる健康被害だけではく、風評被害による「資産価値」の下落までが考えられるからです。一体、アパのマンションではどのような衛生管理が行われているのか、続いてその中身を見ていくことにしましょう。
温泉利用料は年間528万円 管理組合が負担させられる
実は以前、アパの温泉付きマンションを購入したお客さんから相談を受けたことがあり、そのマンションの重要事項説明書を見る機会がありました。その中には温泉に関する項目があり、「特記事項」として以下のような内容(抜粋)が記されていました。
- アパ株式会社が掘削した源泉に関する権利については、アパが「湯口権」(湧出源泉そのものを自由に支配する権利)と「引湯権」(源泉の給湯を受ける権利)を有し、本マンションは引湯権付き住戸となります。
- 管理組合は源泉の利用に関し、管理会社とアパとの間で締結する「源泉利用に関する契約書」の内容を承諾していただきます。なお、源泉利用料は月額44万円(年間528万円)とし、管理組合より支払うものとします。
- 温泉使用に必要な諸設備(温泉配湯設備・温泉揚湯設備・温泉配管設備・温泉専用メーターなど)は管理組合に帰属し、その維持管理は管理組合にて行っていただきます。
- 温泉基本使用料は1住戸あたり月額3000円(1カ月2000リットルまでの利用)とし、月間の規定量を超えた場合は、10リットル毎に10円の温泉超過使用料を支払うものとします。
- 温泉は薬品による減菌処理の上、温泉水槽を経由し、各住戸の浴室温泉専用カランにておよそ4.5倍に希釈し配湯します。ただし、季節や時間帯などにより変動することがあります。
- 温泉の汲み上げ量は、東京都の総量規制により本マンション全体で1日50トンまでに制限されます。規制値に達した場合、その月は温泉供給を中止しますので、温泉専用カランからは白湯のみが配湯されることになります。
- 温泉の飲用につきましては原則禁止します。
- 温泉は天然温泉のため、天変地異や諸処の事由により枯渇し、利用できなくなる場合があります。
- 温泉給水ポンプは、おおむね3~5年毎に1回、管理組合の負担にて交換していただきます。
- 温泉の成分により、浴槽・浴槽床などが変色する場合があります。
読んでお分かりのように、売り主であるアパは温泉に関する権利は自社で温存しつつ、維持管理については管理組合に負担させています。もちろん、受益者にメンテナンス費用を負担させることは道義上、間違いではありませんが、年間500万円超の温泉利用料を管理組合から徴収しておきながら、衛生管理はすべて管理会社と区分所有者に丸投げでは、「売ったら売りっ放し」と言われても仕方ないように思えてなりません。まさに、業界の悪い体質が露呈してしまった格好です。
現在、食品業界では賞味期限の改ざんや売れ残りの原材料を一部再利用するなどの不祥事が相次いでいます。また、住宅分野では今月、またしても耐震偽装されたマンションが横浜で見つかりました。幸い、販売される前に偽装が発見されたため、姉歯事件のような被害者は出ずに済みましたが、今後、企業のモラルやコンプライアンスがより厳しく問われることは間違いないでしょう。これを契機に企業の社会的責任とは何なのか?……改めて、考えてみる必要がありそうです。