地価やマンション価格は下落しているのに、なぜ、管理費は安くならないのか? |
そこで売り上げを確保しなければならない各企業は需要喚起の切り札として低価格路線へと軸足(経営戦略)をシフト。その結果、商品やサービスの価格が下がり続ける“負のスパイラル”へと突入し、現在も抜け出せず、もがき苦しんでいる状態です。
となれば、「地価やマンション価格が下落しているのに、なぜ、管理費は安くならないのか」と疑問に思うのは至って自然なことです。そもそも、適正な管理費の金額とは、一体いくらなのか?―― 限られた予算を最大限に有効活用しなければならない管理組合(マンション会計)にとって、この答えを見つけられるかがマンションの資産価値をも左右する結果につながります。
昨年末に取材した大阪市内のあるマンションも同様の悩みを抱えていました。総戸数78戸、築12年の単棟型マンションで、管理会社への委託管理費は年間1500万円。理事長・副理事長・相談役を含めた7名体制で理事会は毎月のように開催され、また、理事長には収支決算報告書が毎月、送付されていたにもかかわらず、1997年3月の竣工以来、2006年まで誰一人、この金額(1500万円)に異を唱える者はいませんでした。
「管理費の削減」と口で言うのは簡単ですが、いざ実行に移そうと思うと、知識も経験も不十分な管理組合員にとっては一筋縄でいかない現実が待ち構えていたのです。幸いにして、このマンションでは1人のキーパーソンの登場によって、委託管理費のコストダウンに成功。最終的には管理会社の変更にまでこぎつけました。マンションの前途に光明が見い出された瞬間です。
本コラムの読者の中には、管理会社の変更を検討している管理組合の人がいるものと想像します。そこで、今回は実際にあった管理会社の変更をめぐる攻防劇を、当事者の声を交えながらご紹介します。心の葛藤(心理描写)を中心に、一連の出来事を振り返ってみることにします。
管理会社に対する評価は半数が「やや満足」
しかし、それは“表面上”の話に過ぎなかった
当初(変更前)、このマンションの管理業務を引き受けていた管理会社は、受託管理戸数20万戸を超える大手の管理会社でした。今回、管理会社の交替で旗振り役となった2006年度の理事長、大竹さん(仮名)は、その当時の様子を「管理人は住民から信頼されており、また、掲示板の定期的な更新や清掃もきちんと行われていて、表面上はまったく問題ないように見えた」と振り返ります。さらに、「フロント担当者は若いが優秀」とも付け加えており、事実、住民アンケートでは管理人に対する評価は8割以上が「満足」と回答。管理会社に対する評価も半数が「やや満足」とのことでした。すべてが順調に運んでいるかのような印象でした。
しかし、順調なのはあくまで“表面上”の話。理事長という管理組合の代表の立場で接してみると、「フロント担当者の業務の進め方に、次第に違和感を覚えるようになっていった」(大竹さん)といいます。たとえば、理事会での議事進行。議事の内容につき了承を求める際、矢継ぎ早にフロント担当者は「理事長、これでいいですか」と判断をあおいで来たそうです。
もちろん、理事長は管理組合の代表者だけに、直接的に意見を求めることは不適切ではありません。問題なのは、まるで他の理事からの発言を避けようとしているかのような振る舞いだったということ。議論の入り込む余地を与えず、管理会社が自社に都合よく事を運ぼうとする“あからさま”な態度に、大竹さんは不信感を募らせていったのでした。
では、歴代の理事長はどうして不信感を募らせることがなかったのでしょうか。大竹さんいわく、「マンション管理での突っ込んだ話をするには一定の専門知識が必要になる。管理会社と対等な話ができないといった引け目が原因ではないか」と分析します。どうやら「事なかれ主義」の蔓延が、理事会の活動を萎縮させてしまったようなのです。
「忙しい」「よく分からない」と組合活動から遠ざかりたがる居住者は、どのマンションにも必ずいます(下グラフ参照)。しかし、意識レベルの低下は組合活動を停滞させ、引いてはマンションの資産価値までも下げてしまう懸念材料となります。管理会社に主導権を握られてしまうのは、組合結束力の“脆弱さ”と無関係ではありません。知識や経験よりも、意識(管理組合への関心)や情熱がより重要であることを再認識しなければならないでしょう。
逆にいえば、志(こころざし)の高いキーパーソンが1人でも現れれば、いくらでも管理組合は生まれ変われるということです。今回、取材した大阪のマンションは、まさにその典型例に該当します。