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トルクメニスタン政治の基礎知識2007(2ページ目)

2月に大統領選挙が行なわれたばかりの国、トルクメニスタンをご存じですか? 永世中立国と国連に認められながら、実はけっこうな独裁国家……トルクメニスタンの今をわかりやすく解説!

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【トルクメニスタンの民族と歴史】
2ページ目 【トルクメニスタンの独裁者・ニヤゾフの登場】
3ページ目 【永世中立国を標榜するトルクメニスタンの外交課題】

【トルクメニスタンの独裁者・ニヤゾフの登場】

旧ソ連からの独立とニヤゾフの登場

トルクメニスタンの政治体制
トルクメニスタンの政治体制。大統領の権限が非常に強いものとなっている。
1991年、旧ソ連が解体すると、トルクメン共和国もトルクメニスタンとして独立し、ロシアなどが主導して作った独立国家共同体(CIS)に加入します。

このような形であっけなく独立したトルクメニスタンの指導者になったのは、旧ソ連時代からの指導者・ニヤゾフでした。

もともとソ連共産党に所属していたニヤゾフは、独立前の1985年にトルクメン共和国の首相に就任(90年から大統領)、すでにトップの地位を獲得していました。そしてトルクメニスタン独立と同時に、そのまま一国の元首となっていったのです。

ニヤゾフは独立後初の92年大統領選で再選されると、ソ連のタガが外れたこともあってか、次第に独裁色を強めていきます。94年には国民投票で2002年までの(!)任期延長を実現すると、99年にはとうとう「終身大統領」つまり永遠の大統領となってしまいました。

(もっとも、2002年には自分でこれを返上、2010年に大統領選挙を行うことを宣言していました。)

こうして、トルクメニスタンの独立はトルクメン人の政治を実現することはなく、ニヤゾフという新たな独裁者へのトルクメン人の服従を生むことになったのでした。

進むニヤゾフへの「個人崇拝」

ニヤゾフ
ニヤゾフ前大統領。高いカリスマ性を武器に、自分への個人崇拝政策を進めていった。
そして彼はイスラム教の復興よりも、自分自身への「崇拝」政策を進めていきました。

ニヤゾフが創設した新聞社しか認めない厳しい言論統制のなかで、彼は自分を「ニヤゾフ」ではなく「チュルクメンバシュ」(トルクメン人の長という意味)と呼ばせるようになります。新聞には毎日のように彼のニュース、彼の写真が掲載されます(まるでどこかの国のような……)。

さらには月(1月、2月……の月ですね)の名前として家族の名前をつけたり、彼が幼いときに地震で死んだ母の誕生日を祝日にしたり、けっこうやりたい放題なことをしました。

彼は心臓病の持病があったため、喫煙ができなかったのですが、その腹いせか、1997年に公共の場での喫煙を突如禁止。若者のアゴヒゲや長髪も禁止、カーラジオを聞いたりするのも公共の場では禁止してしまいました。

極め付けは2002年に出した著書『魂の書(ルーフマーナ)』を聖典『コーラン(クルアーン)』と同じように扱わせ、自らもムハンマド同様の「預言者」であるといいはじめたことです。

これはむしろムハンマドを最終預言者とするイスラムの教えに反しているわけですが、彼は「国民が崇拝するのだからしょうがない」と、こういう個人崇拝を正当化していました。

権力集中と反対勢力への弾圧

さらにニヤゾフは大統領だけでなく首相も兼任し、彼自身への権力集中を進めていきました。

さらにトルクメニスンタンには議会(メジュリス)の他に、国民が一部だけしか選挙できない「人民評議会(ハルク・マスラハトゥ)」というものが大きな力を握っています。ここには大統領も参加するため、大統領は大きな影響力を行使できるようになっています。

ニヤゾフを終身大統領にすることを決めたのも、国民投票ではなく、議会でもなく、この「人民評議会」の決定によるものです。……もっとも国民投票を実施したとしても、反対票を投じるには相当な勇気が必要になったことでしょうが。

一方、ニヤゾフは反対勢力を厳しく押えつけていきました。トルクメニスタンは政党の存在を認めていますが、実際にはこのような政策によって、ニヤゾフを党首としていたトルクメニスタン民主党の一党独裁体制となっています。

しかしニヤゾフの一存、もっといえば「きまぐれ」で左遷や解任されたりする人々のなかから、「反体制派」が生まれていきました。亡命したシムフラドフ元中国大使を中心とする「トルクメニスタン人民運動」などが活動しています。ただし、国内では活動ができない状態で、もっぱら海外で行われています。

そんなニヤゾフ政権はなぜ長く続いたのでしょう。次ページではトルクメニスタンをめぐる国際的な構図について説明していきます。
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