子どもの体力・運動能力低下がもたらす弊害とは
文部科学省では、1964年度から継続して小学生~79歳までの国民を対象に体力・運動能力調査を行っており、平成20年度の結果が、先日発表されました。それによると1985年を境に低下傾向を続けてきた、走る、跳ぶ、投げるといった子どもたちの運動能力が上向く傾向にあり、ようやく体力低下に底を打った兆しを確認できたと分析されていますが、依然、子どもたちの体力、運動能力の低下は深刻なレベルにあるようです。
そこで今回は子どもたちの深刻な現状をご紹介すると共に、子どもの体力を向上させる方法や場所について、NHK教育『からだであそぼ』の監修者でもある山梨大学教育人間科学部の中村和彦准教授にお話しをお伺いしました。
<目次>
日常の基本動作ができない子どもが増えている!
子どもたちの体力、運動能力の低下が危機的水準にあることは、日常の基本動作ができない子どもの増加に現れていると、中村氏は指摘します。具体的には転倒した時に普通は思わず出るはずの手が出ないために顔面や頭を強打して顔面骨折にまで至ってしまう、ボールをうまくキャッチすることができずに顔面で受けとめてしまい、さらにはその時に目をつぶるという反応が出ないために眼球損傷をしてしまうケースが出てきているなど、まさに子どもたちの体力の低下、運動経験の不足が、時には子どもの命を脅かしてしまうレベルにまでなっているというのです。
そうした現実を証明するように、小学生のケガの総件数が1978年には約34.5万件だったのに対し、1999年には約45万件に増えており(日本体育・学校健康センター・1999年調査結果より)、さらにそのケガの内容も骨折や顔・頭を怪我する子どもが多くなっています。
また、子どもたちの体力低下、運動経験の不足はこうした外傷だけではなく、生活習慣病予備軍の子どもの増加、汗腺が発達する時期に冷暖房の効いた室内で過ごすことが増え、さらに運動や遊びで汗をかく経験が減ったために汗腺が十分に発達せず、結果として汗が上手にかけなくなって熱中症にかかりやすくなる、免疫力が低下してインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなるという問題も多くなってきているといいます。
スポーツでも足りない?子どもの運動能力を高める36の基本動作とは
小学校5年生で、放課後まったく体を動かさない子どもが全体の4割もいるというデータもあり、確かに子どもの外遊びの時間は減っている一方、乳幼児の頃からスイミングやサッカーなどの運動系の習い事に通う子どもが増えている印象がありますが、実はこうした運動系の習い事をしているだけでは子どもたちの運動能力の発達には不十分だと中村氏はいいます。「全身運動といわれる水泳であっても、投げる、蹴るといった動作は含まれていませんよね? ”スポーツ”は基本的に大人のために作られたものなので、スポーツをやっているからといって、それだけでは子どもの基本的な運動能力向上につながらないのです」(中村氏)
そこで、子どもの運動能力向上のために有効なものとして中村氏が提唱しているのが、投げる、歩く、ける、投げる、跳ぶといった、あらゆるスポーツの基礎となる”36の動作”です。
36の動作の具体的内容はスポーツ・エンジェルのサイトに紹介されていますが、昔は意識せずとも、外遊びの中で知らず知らずにこうした動作を体験していきましたが、子どもを取り巻く環境の変化で、現代では意識的に取り組まなければなかなか体験する機会がなくなってしまっており、それが子どもたちの運動能力の低下につながっているというのです。
36の基本動作を体感できる施設『KID-O-KID』
写真提供:ボーネルンド
『キドキド』は、子どもの”こころ・頭・からだ”のバランスのとれた発育をサポートすることを目的としており、運動科学の先進国といわれるデンマークの教育理論基づいて開発された遊具を中心に、全身を使って遊ぶスペースから、自分の頭で考え創造性を高めるスペースまでがあり、0歳から、発達段階に応じて遊ぶことができます。
写真提供:ボーネルンド
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