不動産売買契約書について、前回は契約書を作成する目的や法律上の位置付けなどを説明しました。今回からはそれぞれの契約条項の意味や確認ポイントなどを具体的に説明していきます。
その前に、まずは売買契約書の全体像をおさえておきましょう。
売買契約書のタイプは大きく2つに分かれる
不動産業者が作成する売買契約書には、大きく分けて、あらかじめ決まったひな型に必要事項を記入(入力)していくタイプと、契約内容に合わせた契約条項をその都度作成するタイプの2種類があります。ひな型による売買契約書では、ごく一般的な契約内容であれば間違いが起きにくいという長所がある反面で、物件ごとに異なる契約内容に対しては柔軟に対応することが難しく、場合によっては「○条削除」「○条適用除外」「○条の定めにかかわらず云々」などといった追加事項のオンパレードになりかねません。
その一方で、契約条項をその都度作成する売買契約書では、契約内容に合わせた最適な書面を作成できるものの、作成者の知識が乏しい場合や、あるいは知識があってもうっかりミスなどにより、必要事項を漏らしたり内容を間違えたりする危険性を伴います。
どちらが適切なのかは一概にいえませんが、いずれにしてもまずは重要事項説明書での記載事項(重複する部分も多い)と相違する点がないかどうかに注意することが大切です。
また、最近では売買対象物件の表示、売買金額、支払い条件、住宅ローンの内容などを一覧表形式でまとめたスタイルが主流であり、以後の説明もそれを前提に進めますが、契約条項の文面のなかにそれぞれの内容が盛り込まれていたとしても意味は同じです。
それでは、一般的な契約条項を例にして注意点などをみていくことにしましょう。
売買の目的物および売買代金
不動産の売買にかぎらず、一般の商取引における契約書でも初めに記載されるお題目のような条項です。法律上は重要ですが、実際にはあまり注意する必要もありません。ただし、一覧表形式でない場合には「標記の売買代金」の部分に具体的な金額が記載されることになりますから、間違いがないかしっかり確認しましょう。
ちなみに、「標記の」という場合と「表記の」という場合があるものの、どちらもそれぞれの意味において正しく、いずれであっても問題はありません。
手付金
手付金は売買契約の成立を担保する目的で(または売買契約成立の証拠として)授受されるものであり、法律上の解釈では売買代金の一部になりません。したがって、残りの売買代金を支払うとき、厳密にはいったん手付金を返還し、改めて売買代金の全額を支払うことになりますが、実際にはそのような面倒を避けるため「売買代金の一部に充当します」と記載されています。また、手付金に利息を付さないのも一般的な取り扱いです。
なお、不動産業者が売主の場合において、未完成物件で売買代金の5%または1,000万円を超える手付金等、完成済み物件で売買代金の10%または1,000万円を超える手付金等には保全措置が必要です。この場合には必ず保全措置の内容を確認してください。
ただし、保全措置があったとしても、売主が不動産業者の場合に手付金として受け取ることのできる金額は、売買代金の20%までに制限されています。
売買代金の支払い時期
中間金や残代金の支払いに関する条項で、たいていの場合はその期日を特定の1日に限定するのではなく「◯◯年◯月◯日まで」のような表示になっています。とくに、建築工事途中の建物であったり、買換えが絡んでいたりするときは、不可抗力で引き渡し予定日が延びることもありますから、十分に余裕をもった期日設定になっているかどうかを確認しましょう。
なお、中間金の支払いがある場合には、この中間金も前記の保全措置の対象に含まれます。
そのため、不動産業者が売主の場合の完成済み物件で、手付金が10%、中間金が同じく10%という場合には、中間金を支払う時点で手付金と中間金を合わせた20%分に対する保全措置が講じられることになります。
なお余談ながら、支払い期限が定められた場合のタイムリミットは、民法ではその期日の夜12時までですが、商法では支払い場所での営業時間内とされています。
たとえば、銀行で支払うのなら午後3時まで、法務局で支払うのなら午後5時までということになり、不動産取引の場合もこちらが優先します。「期限日の夜12時までに支払えばいいだろう」は通用しません。
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