不動産売買契約書について、前回は売主の瑕疵担保責任および各種負担金の清算などのポイントを説明しました。引き続き今回は、手付解除、契約違反による解除と違約金の定め、融資利用の特約(住宅ローン特約)に関する条項をみていくことにしましょう。
手付解除
いわゆる「手付放棄・手付倍返し」による契約解除について規定をした条項で、契約解除の理由は問いません。このとき、買主は解除の意思表示をするだけで済みますが、売主が解除する場合には現実に手付金の倍額を買主へ提供する必要があるものとされ、その具体的な手続きを条項に盛り込んでいる場合もあります。
また、自分が契約の履行に着手していても相手方が履行に着手していなければ手付解除は可能ですが、「履行着手」の判断基準が明確ではない場合もあるため、その適用期限を定めることが多くなっています。
ただし、短期間の適用期限は法の趣旨に反するものとされ、東京都などでは月単位の期限を設定するように指導しています。設定された手付解除期限が10日間とか1~2週間程度の場合には注意してください。
なお、売主が宅地建物取引業者で買主が業者でない場合の売買契約では、期限を設定すること自体が無効となり、たとえ期限が設定されていても売主が契約の履行に着手していない限り、期限後でも買主からの解除権行使は可能とされます。
契約違反による解除
契約の相手方に債務不履行があれば売買契約を解除することができ、さらに損害賠償の請求をすることもできますが、現実に債務不履行との因果関係や損害額を立証することは困難です。そこで、この条項のように違約金の額(損害賠償の予定額)をあらかじめ定めておくことが一般的です。
違約金の額は、公序良俗に反しない限り当事者間で任意に定めることが可能なものの、売買代金の10%だと手付解除と何ら変わらないことになるケースが多いため、これを20%に定めている場合が少なくありません。
「違約金として標記の金額を~」という条項にして、違約金の額(一定の金額もしくは売買金額に対する割合)をその都度記入するようになっている場合もあります。
ちなみに、売主が宅地建物取引業者で買主が業者ではない場合の売買契約では、違約金の額が売買代金の20%までに制限されています。
また、履行不能(物理的に引き渡しができないなど)の場合を除き、相手方の債務不履行による契約解除をするときには、たとえその相手方に履行をする意思がないことが明らかでも「相当の期間を定めた催告」をすることが必要です。
さらに、当事者が複数(共同売主や共同買主)の場合には、その全員に対して、またはその全員から、契約解除の意思表示をしなければなりません。
融資利用の特約
住宅購入では金融機関などの住宅ローンを利用することが一般的ですが、その際にこの「融資利用の特約(ローン条項)」が契約書に盛り込まれていることを必ず確認してください。この条項がないと、住宅ローンを借りられなくても買主は売買代金を支払わなければならず、支払いができなければ「違約」になってしまいます。
住宅ローンの非承認には、申し込んだローンがまったく借りられない場合だけでなく、減額承認された場合、あるいは複数の金融機関に申し込んだうちの、一部承認、一部非承認という場合も含まれます。
「標記」の該当欄には、申し込む住宅ローンの条件(金融機関名、支店名またはローンセンター名、借入れ金額、金利、年数、返済方法など)ができるだけ詳しく記載されていることが望ましく、これが曖昧なままだとひとつの金融機関で承認が得られなかった場合に、次の金融機関、さらに次の金融機関へと、どんどん悪い条件のところへ振り回される危険性もあるでしょう。
契約解除の期限は日程的に十分な余裕をもって設定されていることが必要ですが、万一承認が得られなかった場合の取り扱いを理解しておくことが大切です。
契約条項では「本契約を解除します」という「解除条件型」(自動的に解除される)と、「買主は本契約を解除することができます」という「解除権留保型」(買主が解除権を行使して解除される)の2つのパターンがあるので注意しなければなりません。
「解除権留保型」の場合には、期限内に契約解除の意思表示をすることが必要で、この期限を経過すると買主は住宅ローン承認の有無にかかわらず、売買代金を支払わなければならないことになってしまいます。
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