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筆界特定制度の基礎知識

「筆界特定制度」が、土地の境界紛争を従来よりも迅速に解決することを目的として2006年に創設されています。まだあまり聞き慣れない「筆界」という用語の意味と、制度の概要を確認しておくことにしましょう。(初出:2006年1月)

執筆者:平野 雅之


2006年1月20日、土地の境界紛争を解決するための新たな制度として「筆界(ひっかい)特定制度」が施行されました。といっても、不動産の法律などに馴染みがない人にとっては何のことやら、ピンとこないでしょうね。「引っ掻いて筆界って何だ?」という人も多いでしょうが、簡単にいってしまえば登記された土地の境界のことです。

新しい制度は、争いのある土地境界(点および線)を、新たに創設された「筆界特定登記官」が認定、判断をしてくれるというものです。これにより、従来は境界確定訴訟などの手続きによって平均で2年程度かかっていた境界紛争の解決が、半年程度で処理できるものとされています。決して奇怪(きっかい)な制度ではありません。

まだ一般にはあまりよく知られていない「筆界特定制度」ですが、その基本的な内容を確認しておくことにしましょう。


土地の境界には、ふたつの種類がある!?

土地
当事者の境界の認識が正しいとはかぎらず、ときにはお隣同士がどちらも間違えていることもある
この「筆界特定制度」を理解するためには、まず境界の概念が分からなければ先に進めません。ふだん何気なく「境界」とか「敷地境界」といった用語を使っていますが、そこには「私法上の境界」と「公法上の境界」とが存在します。

「私法上の境界」とは所有権の及ぶ範囲であり、隣接する当事者同士の合意などによって変更することができます。「ここからここまで俺んち、ここから先があんたんち」でも、それが合意内容であるなら有効なわけです。隣地の一部を譲り受けたり、時効取得したりして所有権の範囲が広がることもあるでしょう。このときに、それを登記するかどうかはまた別の問題であって、登記をしなくても所有権の範囲の変動は、その相手に対して主張できることになります。

それに対して「公法上の境界」は、たとえ当事者間で重厚な契約書を作成しようとも変更することはできず、分筆合筆といった登記申請手続きによってのみ変更や新たな境界の設定ができることになっています。そして、この「公法上の境界」のことを「筆界」といい、登記された一つひとつの土地の境界と同じものです。

たいていはこの「私法上の境界」と「公法上の境界」とが一致しているのであり、わざわざ分けて考える必要はないのですが、いざ境界紛争が生じると途端にややこしい話となってしまいます。従来の制度のもとでは、「公法上の境界」に争いがあれば「境界確定訴訟」、「私法上の境界」に争いがあれば「所有権確認請求の訴訟」など、いずれも民事訴訟の手続きによって解決するしかありませんでした。

そこで、「公法上の境界」をめぐる紛争について訴訟よりも迅速に解決するための制度として創設されたのが「筆界特定制度」であり、その背景には国による地籍調査などを円滑に進めるための意図もあるようです。


筆界特定の流れ

隣地所有者などとの間で土地の境界をめぐる紛争が生じたとき、その土地の所有者(所有権の登記名義人や相続人など)が、その土地を管轄する法務局・地方法務局の「筆界特定登記官」に対して、筆界特定の申請をします。その際の筆界特定申請書には「筆界特定を必要とする理由」などをある程度まで具体的に記載するとともに、所定の添付書類や調査のための参考資料(手持ち資料)なども併せて提出することになっています。

筆界特定の申請があると、法務局・地方法務局の長から任命された「筆界調査委員」(土地家屋調査士などの外部専門家)とその補助員(法務局職員)とが、土地の実地調査、測量、申請人や関係者からの事情聴取など筆界特定に必要な作業を行ない、その筆界に関する意見が「筆界特定登記官」に提出されます。そして、その意見を踏まえたうえで「筆界特定登記官」が筆界を特定することになっています。筆界特定された結果は「筆界特定書」として、その土地を管轄する登記所に保管されるとともに、対象土地の登記記録には筆界特定がされた旨の記載がされます。

なお、筆界特定の申請手数料は土地の価額によって決まりますが、たとえば評価額の合計(紛争対象の2筆の土地の合計)が4,000万円の場合における申請手数料は8,000円となっています。ただし、筆界特定のために測量が必要な場合にはこれを負担しなければならず、こちらは数十万円の費用になることも考えられます。

ちなみに「筆界特定登記官」は、本人や一定範囲の親族などが対象土地または関係土地の所有者となっている場合には、筆界特定をすることができないことになっています。当然といえば当然の措置でしょう。


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