売買契約書などの書類に何らかの間違いが見つかったとき、それを訂正するのに便利な「捨印」ですが、あまり安易に考えるべきではありません。



question
先日、中古マンションの売買契約を行ない、手付金を支払いました。売買契約書の買主の欄に署名をして印鑑を押したところ、仲介業者の人から「欄外に捨印も押してください」といわれました。不審に思ってはじめは断ったのですが、「万一のためで、悪用することは絶対にありませんから私を信じてください」といわれ、なおも渋っていると「不動産の契約では捨印が当たり前で、他のお客様にもすべて押してもらっています」と、やや強い口調でいわれました。結局、断りきれずに捨印を押したのですが、本当に捨印を押すことが一般的なのでしょうか?
(千葉県 匿名 30代 男性)



answer
結論から先にいうと、売買契約書に対して売主や買主(契約当事者)は「捨印を押さないこと」が当然であり、普通の媒介業者なら捨印を求めることもないでしょう。決して「捨印を押すことが一般的」ではありません。

これは売買契約書にかぎらず、重要事項説明書など他の契約関係書類でも同じです。なお、捨印とは売買契約書などの欄外部分に、当事者双方が署名押印欄で使ったのと同じ印鑑で押印をすること、または押された印影のことを指します。

捨印の例


捨印を安易に求めてくるケースもある!?

契約関係書類の間違いを訂正するときは、≪売買契約書などの訂正方法を教えて!≫ でも説明したとおり、契約前に間違いが見つかればはじめから作り直し、契約途中に間違いが見つかれば訂正部分と欄外部分の2か所で訂正印による処理をすることが原則です。

不動産業界では、書類の訂正に敏感で慎重に対応する人のほうが多いものの、なかには捨印を求める媒介業者あるいは売主業者もいるようです。

その不動産業者には「捨印を悪用してやろう」などという意識はなく、ただ「捨印があればイザというときに便利だから」という安易な考えだったり、以前から “その業者の内部では” 捨印を押してもらうことが慣例化していたりするケースもあるでしょう。

また、新人の頃からまわりの先輩がそうしていると、「捨印を押してもらうのが正しい方法」だと信じてしまっている営業担当者がいることも考えられます。

しかし、捨印を押せば相手方に書類の訂正権を与えることになり、たとえば、契約の相手方や媒介業者が後から勝手に契約内容を訂正したり、文字を書き加えたりしたときでも、それを合法的に認めざるを得ない結果ともなりかねません。

「捨印を押した日時」と「契約書が改ざんされた日時」の前後関係を証明する手段はありませんから、「知らない」とか「認めていない」とかいっても通用しないのです。

捨印を押させようとする営業担当者は「誤字や脱字があった場合の些細な訂正にしか使わない」という意識だとしても、それを超えて大きな意味を持つ行為であることを十分に認識しなければなりません。

また、捨印による売買契約書などの訂正範囲や文字数には何ら制限がなく、極端に考えれば、特約条項を勝手に加えることも、あったはずの契約条項を全文削除することも、さらには売買金額や支払い条件を改ざんすることも可能です。


捨印を押してもよい場合がある?

こんなに危険な捨印ですから、よほど特殊な事情などがあるのでないかぎり、毅然とした態度で拒否するべきです。捨印がないからといって売買契約書の効力には何ら影響はありませんし、捨印を拒否したからといって売買契約を中止させるような不動産業者もいないでしょう。

なお、ここでいう特殊な事情とは、たとえば「自分は売買契約の締結後に海外へ出掛けてしまう(あるいは、遠方に住んでいる)ので、訂正があっても新たに印鑑を押すことはできないが、訂正をするときには身内の者が代わりにチェックできる」などといった場合が考えられます。

売買契約のイラスト

印鑑はたくさん押せばよいというものではない

もし、誤字や脱字などにより訂正の必要が生じたときには、媒介業者が売主と買主のところを回ってそれぞれの訂正印をもらえば済むことです。

また、急ぐ必要がなければ決済のときに売主と買主がお互いの契約書類を持ち寄って、その場で訂正をすることもできるはずです。

その手間を惜しんで捨印を押させることにより、売主や買主から不信感を抱かれても何らメリットはありませんから、普通の不動産業者であれば捨印を求めたりはしないのです。

さらに、中古住宅の売買であれば売買契約書を2通作成して売主と買主がそれぞれ1通ずつを持ち帰ることが通例であり、その片方だけを勝手に書き換えても整合性がありません。

そのため、現実的に考えれば捨印があってもなくても、訂正の必要が生じたときの不動産業者の手間は、正当な訂正であるかぎり、それほど変わらないことになります。

それにも関わらず不動産業者が「捨印を強要」するのであれば、何か意図的なものを考えざるを得ないでしょう。

捨印を押さざるを得ない状況になったとしても、自分が売買契約書の原本を所持しているかぎりは、仮に相手の持つ売買契約書が改ざんされても、その不当性を主張することはできます。

しかし、相手が売買契約書を改ざんしたうえで第三者に提示して悪用することは防ぐことができないのです。

なお、売買契約書を1通だけ作成したうえで、売主か買主のどちらか一方が原本を、もう一方はコピーしたものだけを所持するというケースもありますが、このようなときに「捨印が押された原本を相手方だけが所持」という状況は避けるようにしなければなりません。


司法書士への委任状などの捨印は例外

ただし、登記の申請に際して司法書士に対する委任状などへは捨印を押すことが一般的です。

これは、作成した申請書類などへの記載事項と、住民票や印鑑証明書など添付書類の内容がすべて合致していることが求められ、もし誤字や脱字などがあれば登記申請手続きに支障をきたすので、速やかな訂正が必要となるためです。

もちろん、捨印を押した書類を預ける司法書士が信頼できる相手だという一般的な認識が前提となっています。もっとも、司法書士の先生が登記申請書などを悪用する余地もほとんどないわけですが……。

また、金融機関との間における金銭消費貸借契約書(住宅ローンの契約書)や保険会社との契約書などでは、あらかじめ捨印を押す欄が設けられていることもあるでしょう。

この場合の捨印は必ずしも押さなければならないものとはかぎらず、相手の金融機関などによってスタンスの違いもあるようです。

「金額欄をはじめ重要な部分については、捨印による訂正を認めない」といった社内基準を定めているケースが多いようですから、よく説明を聞いたうえで必要であれば捨印を押すようにしてください。


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