仮登記といっても一般の人にはあまり馴染みがないでしょう。もし、これから購入しようとする物件に仮登記があれば、本当に大丈夫なのかと心配になるのが当然かもしれません。
(東京都渋谷区 匿名 30代 女性)
中古住宅あるいは土地を購入しようとするときには、仮登記のされた物件に出合う可能性も十分にありますから、まず仮登記がどのようなものなのかを知っておいたほうがよいでしょう。
物件をみただけでは、その登記内容に何があるか分からないもの
しかし、本登記(終局登記ともいわれます)が第三者への対抗力をもつのに対して、仮登記にはそのような効力がありません。
仮登記をすることの目的は、本登記をしたときの「優先順位を保全しておくこと」です。
ちなみに、予備登記のひとつであった「予告登記」(登記に関する争いなどがあったときに裁判所書記官の嘱託によって行なわれる登記で、警告登記ともよばれました)は、2004年の不動産登記法改正により廃止されました。
仮登記の内容による違い
仮登記には大きく分けて2つのパターンがあり、法令(不動産登記法第105条)をもとに、それぞれ「1号仮登記」「2号仮登記」とよばれることもあります。〔物権保全の仮登記〕(不動産登記法第105条第1号)
「当事者間ではすでに権利の変動があった」にもかかわらず、本登記の申請をするのに必要な書類が揃わない場合に行なわれる仮登記です。
登記識別情報(従来の権利証に代わるもの)を紛失したり滅失したりして提出不能の場合、あるいは権利の変動に第三者の許可や承諾などが必要な場合で、その許可などを得ているにもかかわらず、それを証明する書面などが添付できないときなどがこれに該当します。
〔請求権保全の仮登記〕(不動産登記法第105条第2号)
「当事者間における権利変動の実態はまだ生じていない」ものの、将来において権利変動をさせるための請求権があるとき、その権利を保全するために行なわれる仮登記です。
売買の予約の場合や、金銭消費貸借(住宅ローンや他の借入金)で返済が滞ったときに所有権を移転させる(代物弁済)条件付契約が成立した場合などに用いられることがあります。
また、農地売買では農地法の許可を得ることが条件となるため、その許可が得られる前にこの仮登記をするケースもあるでしょう。
仮登記の名称が「所有権移転仮登記」「抵当権設定仮登記」「賃借権設定仮登記」などとなっていれば1号仮登記、「所有権移転請求権仮登記」「条件付賃借権設定仮登記」などとなっていれば2号仮登記です。
これらのうち、1号仮登記が長年そのまま放置されることはあまり考えられませんが、なかには権利者の何らかの意図であえて仮登記のままにしているものがないともかぎりません。
一方、2号仮登記には10年前とか20年前とかに仮登記がされたまま、それが現在も有効になっているケースなどもあります。
たとえば20年以上前には、住宅ローンを借りたときの担保権を強固にする目的から、通常の抵当権設定登記とワンセットで所有者の登記のあとに「所有権移転請求権仮登記」や「条件付賃借権設定仮登記」などを常に付けていたノンバンクなどもありました。
所有者自身が知らない(仮登記されたこと自体を知らないか、それがされたことを忘れている)ままで、ずっと仮登記が付いていることもあるでしょう。現在でも新たにそのような仮登記をする金融機関があるかもしれません。
仮登記についてあまり難しい規定を知る必要はありませんが、覚えておきたいのは「仮登記が本登記に直されれば、仮登記したときの順位が優先する」ということです。
つまり、たとえば「所有権移転仮登記」が付いている物件を、その仮登記が付いたままで売買したとき、その仮登記が本登記に直されることによって、仮登記以降の権利変動(両立できない権利)は登記官の職権で抹消されることになります。
所有権移転仮登記 A | |
所有権移転 B | |
所有権移転 C | |
↓ 仮登記が本登記されると | |
所有権移転 A | |
抹消 B | |
抹消 C |
仮登記がある物件を購入するときには?
そのままにしておくと自分の権利が否定されかねない怖い仮登記ですが、購入しようとする物件に上で説明した「1号仮登記」が付いているときは、少し慎重にその経緯や事情を確認しなければなりません。あからさまに二重売買をしようとする売主はいないでしょうが、たとえば「所有権移転仮登記」であれば売主と第三者との間でいったんは権利変動の実態があったことになるでしょう。
その権利変動がすでに解除されているのか、あるいはこれから解除されるのか、そしてその仮登記が確実に抹消されるものなのかどうかをよく確かめることが大切です。
しかし、一般的に売買物件でみられるのは「2号仮登記」(○○請求権仮登記、条件付○○仮登記など)であり、これらの仮登記があったとしても、通常の住宅売買ではそれほど心配する必要はありません。
というのも、媒介業者がきちんと業務にあたるかぎり、その仮登記の抹消が可能であることを、仮登記の権利者に確認をしたうえで売買の段取りを組むからです。なお、「2号仮登記」の場合にかぎらず「1号仮登記」の場合でも基本的な進めかたは同じです。
実際の仮登記の抹消は、売買契約締結前に行なう場合、売買契約締結から決済までの間に行なう場合、決済と同時に行なう(買主への所有権移転登記、仮登記の抹消登記、従前の抵当権の抹消登記などを同時に申請する)場合の3パターンが考えられます。
仮に決済と同時に抹消登記の申請をするのであれば、司法書士が仮登記の抹消に必要な書類などが揃っていることを確認し、司法書士によるゴーサインを待って、残代金のやり取りがされることになります。
また、売買契約締結時点で仮登記の抹消が不確定であれば、「これを抹消できないときには売買契約を白紙解除する」といった旨の特約が加えられます。抹消できることが間違いないと判断される場合でも、万一の事態に備えて同様の特約を盛り込むことがあります。
仮登記が付いているということよりも、むしろ「白紙解除となったときに、支払った手付金が確実に戻ってくるかどうか」のほうが心配すべきことでしょう。
仮登記に対して細心の注意は欠かせない
しかし、仮登記に対する注意がまったく必要ないというわけではありません。権利や背景が複雑な物件の場合には、何らかの仮登記が付けられたままで、関連会社あるいは関係者の間で売買などが繰り返されているケースもあり、順位的に古くなった仮登記の存在を媒介業者が見落とすことも、絶対にあり得ないとはいえません。
また、媒介業者を通さずに個人間で売買をするようなときには、仮登記の存在を見落とす可能性が高まるほか、仮登記の権利者との交渉がうまくいかなかったり、仮登記に対する売主買主双方の認識が不十分で売買の段取りを誤ったりすることも考えられます。
いずれにしても(ないことが明らかな場合を除き)仮登記の存在の有無についての細心の注意は欠かせません。しかし、仮登記があった場合でも、それにきちんと対応して、確実にその仮登記が抹消できるかぎりは、売買するにあたってとくに問題はないでしょう。
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