世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

アテネのアクロポリス/ギリシア(5ページ目)

ユネスコの標章は古代ギリシアへの敬意からパルテノン神殿を模してデザインされた。今回はパルテノン神殿をはじめとする人類史上最高の建築物を誇る世界遺産「アテネのアクロポリス」と、ユネスコ標章に込められた想いを追う。

長谷川 大

長谷川 大

世界遺産 ガイド

得意ジャンルは世界遺産・世界史・海外情勢・海外旅行・哲学・芸術等。世界遺産マイスター、世界遺産検定1級文部科学大臣賞受賞。出版社で編集者として勤務したのち世界一周の旅に出る。現在は東南アジアを拠点に海外旅行を継続しながらフリーの編集者・ライターとして活動。訪問国数は約100、世界遺産は約250に及ぶ。

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ユネスコ標章に託された想い

前門、プロピュライア。17世紀、オスマン・トルコが占領した際に弾薬庫として使い、敵の砲弾を受けて大破した ©牧哲雄

前門、プロピュライア。17世紀、オスマン・トルコが占領した際に弾薬庫として使い、敵の砲弾を受けて大破した ©牧哲雄

古代ギリシアの人々は、電子顕微鏡を使わないと見えないような原子をどうして考え出すことができたのだろうか? これらの結論は、たとえば下のような問いから導かれた。
  • 世界はどうしてはじまったのか?
  • 物を細かく切っていったらどこまで小さく切れるのか?
  • 赤い色はなぜ赤く見えるのか?
  • 正誤善悪とは何か?
パルテノン神殿にUNESCOの文字を組み込んだユネスコの標章

パルテノン神殿にUNESCOの文字を組み込んだユネスコの標章

実はギリシア時代の問いはほとんど現在でも解かれていない。現代科学は古代ギリシアの科学に比べて驚くほど進歩しているが、思考自体はまったく進歩していない。だから時代を問わず、人間はいつも同じような答えを出すしかない。

たとえば「世界はどうしてはじまったのか?」に対して、「神が創った」とか「ビッグ・バンが起きた」とかいえても、それに対して「神はどうやって創られたか」「ビッグバンはなぜ起きたか」と永遠に問うことができる。赤い色にしても、光と神経と脳の関係はわかっても、それがどの段階で赤という質感に変わるのかはまったくわかっていない。アトムにしても、この世に最小の粒子が存在するとして、その内部はどうなっているのか、その謎は解かれようがない。

原子論のように、ギリシア哲学が現代科学に匹敵するような結論を導き出した理由は、何かを単純に信じて終わりにするのではなく、世界を真摯に感じ考え続け、ほとんど思考の限界まで達することができたからだ。ルネサンスの人々が古代ギリシアに生命力や美を見た理由はここにある。

アテネのアクロポリスは古代ギリシアの象徴であり、人間の感性や知性の象徴でもある。同時にそれは世界遺産条約がいう「普遍的価値」を象徴するものでもある。ユネスコのマークにパルテノン神殿が採用されている理由は、きっとこの辺りにあるのだろう。
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