天の国と神の地とチベット人
ジョカンを取り囲むパルコル(八角街)。人々はこの周回路を時計回りに回り、これを巡拝=コルラとする。五体投地をしながら進む者もいる
バルコルを行く人々。中央の男性は手にマニ車を持っている ©牧哲雄
たとえばパルコル(八角街)。ジョカンを取り囲むパルコルと呼ばれる周路を歩いてくると、ストリートチルドレンが死にそうな顔をして物を乞うてくる。彼らは屋台の焼き鳥屋の下に捨てられている骨を集めて食べていたり、ビニール袋に穴をあけて服にしているような子供もいる。毎日毎日パルコルを歩いているとやがて彼らと顔見知りになり、彼らを見ては冗談で逃げ回っていると、やがて鬼ごっこになって、満面の笑みで追いかけっこをする。こうして一緒に遊ぶようになると、私に何かをねだることは2度となくなった。もっとも彼らには観光客はもちろん、現地の人々もお金をめぐむ。すでにそれが社会のシステムとして成立している。
五体投地しながら歩を進める僧 ©牧哲雄
こんな話はいくらでもある。街を歩いているおばあさんにカメラを見せて「撮らせて」というと笑みで応えてくれるし、お金を要求されたことなど一度もなかったどころか、家に招待さえしてくれた。寺の僧は街で捨てられたストリートチルドレンあがりが多く、とても貧乏らしいが、その僧すら私を部屋に招待し、甘いお菓子を振る舞ってくれた。
当時の私の日記にはこんなことが書いてあった。「なぜ彼らはあんなにすなおに笑えるのだろう? どうしたら自分はあんなふうに笑えるようになるのだろう?」。聖と俗の交わる国、チベット。チベットは「天の国」を、ラサとは「神の地」を意味する。もしかしたら、彼らは本当に天国にいるのかもしれない。