カウンターはすべて特等席
場所は東北沢駅北口から徒歩1分。閑静な住宅街に突如現れる、ナチュラルでおしゃれな外観。スペイン料理がお好きなかたなら一度は足を運んだことがあるのではないだろうか。今年の10月に中目黒に移転した「バル・エンリケ」があった場所に、モロッコ料理の台所「エンリケ・マルエコス」は佇む。店内には10席のL字カウンターに、バル・エンリケ時代と同じオープンキッチンが。コンパクトなキッチンながら、ほんわかとした雰囲気を持ちつつ、何事にも動じない芯の強さをも秘める小川歩美シェフが、地に足のつけた無駄のない動きで立ちふるまう。注文を受けてからの動きや下準備のさまなどを眺めていると、きっとモロッコでは、さぞかし多くの経験を積まれたのでは…と想像してしまう。そんな完璧なまでの動きをカウンターから眺められるのは相当楽しいし、調理の合間に発せられる歩美シェフならではの魅力的なモロッコ話に、料理を待つ時間もなんのその(といっても、料理は程よいタイミングで出されます)。もう少し料理を待っていたい、そんな気持ちにさせられることもしばしばだ。
するりと胃におさまる優しい味
料理はコースが中心。「クスクスコース」、「タジン(煮込み料理)コース」、「モロッコオムレツコース」の3種類だ。これにモロッコの伝統スープである「ハリラ」、前菜の盛り合わせ、自家製モロッコパン、デザートに飲み物がつく。前菜の盛り合わせは日によって違うようだが、私が来店したときには、インゲンのサラダ、さつまいものシナモン煮、焼きなすのペーストだった。スープも前菜もメインも1品ずつそれなりにボリュームがあるので、食べ応えは十分だ(とくにクスクスは、野菜が惜しげもなくゴロゴロとはいっていて、野菜好きにはうれしいかぎり!)。料理はどれも本当に美味しかった。ハリラをひと口飲んでは、“あぁ、この味よ、この味”と、ひとり心のなかで頷き、チキンレモンタジンを口にしては、“このモロッコ特有のレモンの塩漬けの味。懐かしい~。それにこの鶏肉のしっとり感もまた…”と、たまらない美味しさをかみ締めながら、モロッコの地へ瞬間移動してしまったほどだ。
さらにクスクスを口に含むと、モロッコの“家庭”でクスクスをいただいたときの情景がふと浮かび、その温かさに満ちた滋味深い味わいに感服してしまった。(ワタシはタジンコースにアラカルトでクスクスを注文。ボリュームはあったけれど、優しい味つけなので、胃にすんなりとおさまりました。)