料理人の手によって素材に息が吹き込まれるホワイトアスパラガスとイタリア産のグリンピースを加えた「レンズ豆のスープ」。香りと甘みが際立つ味わいだ。ハンドミンチした牛フィレと鶏モモ肉を、さらに牛フィレでロールしてグリルした、シェフの「スペシャル料理」や「レンズ豆のスープ」も、料理をいただいた後、“これはなんだろう?”と思わせる複雑性があり、印象に残った。レンズ豆のスープには、ホワイトアスパラガスとイタリア産の小さなグリンピースを加えているのだというが、なるほど。甘みが単一ではなく、幾層にも重ねられた旨みある甘さが感じられたのは、そのためだったのか。ブルガズアダの料理には、とにかくひとことでは表現できない不思議さがある。それは、オスマン帝国時代から受け継がれてきた技術もあるが、この店ならではのエッセンスがさらなる魅力を醸しだしているように思う。料理が“生きている”。大げさに思われるかもしれないが、厳選された素材は、メフメット氏の手にかかると、ふたたび“生”あるものとして姿をあらわし、口にすると、体のなかですっと溶けていくかのごとく消えていく。彼の料理には、そんな感想を抱かずにはいられない。皇帝が愛した魚料理を一度は食してみよう「宮廷料理を極めるには、まだまだですよ。生涯修行です。」と謙虚に語ってくださったメフメット氏。しかし最後には、「技術ももちろん大切ですが、とにかく自分が食べたいもの、食べておいしいと感じられるものを作っています。」と、笑みを浮かべながらひっそり話してくれた。このようなシェフと話をしているうちに、食へのただならぬ情熱が感じられ、私は時間軸を越え、トプカプ宮殿で腕をふるっていた料理人たちの姿を思い浮かべたのであった。麻布十番駅から徒歩3分。料理のおいしさもさることながら、気さくでホスピタリティが高いマダムをはじめとするスタッフの方々、そして店内の洗練された雰囲気もまた、さらに食事を楽しませてくれる重要なスパイスとなっている。10年間長野県の飯田市で営業していたこの店には、現在も当時の客が足繁く通っているのだという。そんなところからも、この店の確かな安定感がうかがえた。メフメット氏は魚料理を得意としているとおっしゃっていたのだが、私は残念ながらまだ食していないので、今度はそれをいただこう!魚は宮廷時代どおり、スズキ、金目鯛、ヒラメ、伊勢えび、車えびを中心に、旬の魚料理が登場する。メフメット氏がとくにおすすめしていた、伊勢えび料理。これは活き伊勢えび(トルコ語ではイスタコス)を2時間かけたソースにウニをあわせ、仕上げているとのことなので、これにしよう。いやはや、楽しみである。ブルガズ アダは、栄華を極めた文化を提供する場でもある、と私は思っている。だから、私はこの店にはちゃんとお洒落していきますよ。だって、ここは皇帝が愛した宮殿なのだから。細いエントランスをぬけ、エレベーターを降りたら、そこは別世界。■トルコ宮廷料理「ブルガズ アダ」所在地:東京都港区麻布十番3-7-4 麻布六堂3F営業時間:18:00~23:00LOTEL:03-3769-0606 FAX:03-3769-0607定休日:日曜交通・アクセス:東京メトロ・都営地下鉄麻布十番駅1番出口より徒歩徒歩3分地図:Yahoo!地図情報オフィシャルHP:「ブルガズ アダ」前のページへ1…345※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。