セクシュアルマイノリティ・同性愛/映画・ブックレビュー

泣ける!映画『プレシャス』

ゲイの監督リー・ダニエルズがアカデミー監督賞にノミネートされ、モニークが見事助演女優賞でオスカーに輝いた映画『プレシャス』。マスコミにも絶賛されている感動作のゲイ&レズビアン的な魅力をプッシュします。

後藤 純一

執筆者:後藤 純一

同性愛ガイド

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GW前に公開され、メディアがこぞって絶賛したアカデミー賞映画『プレシャス』。この世の不幸を一身に背負い、どん底としか言いようのない暮らしを余儀なくされているプレシャスが、教師やソーシャルワーカーの助けを得て少しずつ人生に希望を見いだしていくという物語です。

この映画、まちがいなく泣けるのですが、観終わった後に重苦しい気持ちになったりはせず、とても晴れ晴れとした前向きな気持ちで映画館を後にすることができます。意外にもエンターテイメントなシーンもちりばめられ、音楽も素晴らしく、きっと「観てよかった」と思える作品です。

監督は、アフリカ系アメリカ人として史上2人目のアカデミー監督賞ノミネートの栄誉に輝いたリー・ダニエルズ。日本ではあまり報じられていませんが、オープンリー・ゲイの方でもあります。

プレシャス
プレシャス』PRECIOUS: BASED ON THE NOVEL PUSH BY SAPPHIRE
2009年/アメリカ/監督・脚本:リー・ダニエルズ/原作:サファイア/出演:ガボリー・シディベ、モニーク、ポーラ・パットン、マライア・キャリー、レニー・クラヴィッツほか/配給:ファントム・フィルム
(C) PUSH PICTURES, LLC


愛に飢え、苦境に立ち向かう女たちの物語


プレシャス
走ることもできないくらいの巨体で、炭のように黒い肌のプレシャス(ガボレイ・シディベ)は、犯罪と貧困の街ハーレムに育ち、実の父親にレイプされ、障害を持った子どもを産み、母親(モニーク)からは「お前が夫を奪った」と暴力を受け、学校もろくに行けず、読み書きもできず、あまりにも悲惨な…この世の不幸を一身に背負ったような女の子でした。
 
精神に破綻をきたしてもおかしくないほどの苛酷さですが、プレシャスは決して絶望したり、グレたりしませんでした。ふつうの女の子のように恋をしたり、スターになったりすることを夢見て、おおらかに生きていました。そんなプレシャスの気だてのよさを見込んで、彼女が抱える問題に向き合い、彼女が這い上がるチャンスを与えてくれたのは、フリースクールの教師レイン(ポーラ・パットン)やソーシャルワーカー(マライア・キャリー)でした。
 
プレシャス
教師レインは、凛とした真っ直ぐな目でプレシャス(や同じように恵まれない境遇にあった女生徒たち)を導いていきます。口うるさいことは言わず、過保護にもならず、人としてやってはいけないことは厳しく叱り、いざという時には助けます。素晴らしい教師です。
 
やがて、プレシャスは、もっともっと厳しくて残酷な事実を突きつけられます。それまで決して泣かなかったプレシャスが、初めて「もう疲れた…。誰も私なんか愛してくれない」と泣きじゃくります。しかし、レインは潤んだ目でプレシャスを見上げ、「私はあなたを愛している」と言うのです…

プレシャス
この映画は、1987年という時代、白人ではない女性たちから見た世界はどのようなものだったのか、を描いています。
女性たちが主人公ではありますが、決して「社会が悪い」とか「男が悪い」と単純に断罪するのではなく、厳しい現実の中でもがき、愛に飢え、傷つき、それでも力強く生きていこうとする女性たちへの讃歌、とも言うべき物語です。決して希望を捨てず、愛に生きようとするその姿は、本当に美しく、かけがえのない輝きを放つのです。
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