この映画、まちがいなく泣けるのですが、観終わった後に重苦しい気持ちになったりはせず、とても晴れ晴れとした前向きな気持ちで映画館を後にすることができます。意外にもエンターテイメントなシーンもちりばめられ、音楽も素晴らしく、きっと「観てよかった」と思える作品です。
監督は、アフリカ系アメリカ人として史上2人目のアカデミー監督賞ノミネートの栄誉に輝いたリー・ダニエルズ。日本ではあまり報じられていませんが、オープンリー・ゲイの方でもあります。
『プレシャス』PRECIOUS: BASED ON THE NOVEL PUSH BY SAPPHIRE 2009年/アメリカ/監督・脚本:リー・ダニエルズ/原作:サファイア/出演:ガボリー・シディベ、モニーク、ポーラ・パットン、マライア・キャリー、レニー・クラヴィッツほか/配給:ファントム・フィルム (C) PUSH PICTURES, LLC |
愛に飢え、苦境に立ち向かう女たちの物語
精神に破綻をきたしてもおかしくないほどの苛酷さですが、プレシャスは決して絶望したり、グレたりしませんでした。ふつうの女の子のように恋をしたり、スターになったりすることを夢見て、おおらかに生きていました。そんなプレシャスの気だてのよさを見込んで、彼女が抱える問題に向き合い、彼女が這い上がるチャンスを与えてくれたのは、フリースクールの教師レイン(ポーラ・パットン)やソーシャルワーカー(マライア・キャリー)でした。
やがて、プレシャスは、もっともっと厳しくて残酷な事実を突きつけられます。それまで決して泣かなかったプレシャスが、初めて「もう疲れた…。誰も私なんか愛してくれない」と泣きじゃくります。しかし、レインは潤んだ目でプレシャスを見上げ、「私はあなたを愛している」と言うのです…
女性たちが主人公ではありますが、決して「社会が悪い」とか「男が悪い」と単純に断罪するのではなく、厳しい現実の中でもがき、愛に飢え、傷つき、それでも力強く生きていこうとする女性たちへの讃歌、とも言うべき物語です。決して希望を捨てず、愛に生きようとするその姿は、本当に美しく、かけがえのない輝きを放つのです。