愛する人のために詐欺や脱獄さえも…
乱暴者ばかりが集まり、ケンカがたえない監獄の中で、一人、おとなしく本を読んでいるフィリップ(ユアン・マクレガー)に、スティーブンはひとめぼれします。フィリップはエイズに感染した友達がまともな治療を受けられるように、図書室で調べ物をしていたのです。スティーブンは本気の恋に落ち、裏で手を回して彼と同室になることに成功し、ラブラブな時間を過ごします。先に出所したスティーブンは、弁護士のふりをして愛するフィリップを釈放させることに成功し、夢のような暮らしがはじまります。しかし、それも長くは続きませんでした。フィリップに愛想を尽かされたスティーブンは、最後に「フィリップ、きみを愛してる!」と言うためだけに、決死の覚悟で大脱走を図るのです…
ジム・キャリー主演というだけあって、基本的にコメディタッチなのですが、せつなくて泣けるシーンもあります…ただ、さすがに詐欺師の映画だけあって、いつどこでどんでん返しが待っているか…油断は禁物です(たぶん「最低!」と、フィリップといっしょに怒りたくなります)
スティーブンはウソで自分の人生を塗り固め、最愛の人さえも詐欺で生んだお金で満足させようとするようなペテン師です。本当の自分などどこにもいない、かわいそうな人…それはそうなのですが、タマネギの皮を剥くように1つ1つウソや見栄をはぎ取っていって、最後にたった1つ残ったものが、フィリップへの愛です(まるでそれは「パンドラの匣」の底に残っていたもの…希望です)。そこにはウソもいつわりもありません。これを「純愛」と言わずして何と言うのでしょうか。
「自分が親に捨てられた子だと知ったときから、人を信用できなくなった」というスティーブンの不幸な生い立ち、保守的なテキサスで、ゲイであることを隠し、自分も周囲も欺き続けたこと…そうした社会環境と詐欺をはたらくようになったことは、決して無関係ではないでしょう。そう思うと、ちょっとだけスティーブンが気の毒に思えてきます。
ジム・キャリーの右隣が本物のフィリップ・モリスさん。弁護士役でカメオ出演しています。 |
実在のスティーブンの刑期は100年以上だそうですが、もしまじめに服役して模範囚として早く出て来れたら、フィリップと感動の再会が待っているのです(まるで『幸福の黄色いハンカチ』のように)。そういう意味で、『フィリップ、きみを愛してる!』は、まだ完結していないリアル・ストーリーなのです。