「香りの素」を嗅ぐ
彼は以前のセミナーで、十円玉を使って銅が香り成分を吸着することを実演した。そして今回は、ワインにあるいくつかの香り成分をよく香る濃度に希釈した水溶液を各参加者に嗅がせてくれた。
■ ヴィニルガイヤコール (クローヴ)
■ メトキシピラジン (青ピーマン)
■ 3-メルカプトヘキシルアセテート (パッションフルーツ)
■ 3-メルカプトヘキサノール (グレープフルーツ)
■ フュランメタンチオール (コーヒー)
成分名の後に示したのは、それぞれの成分の香りの一般的な説明である。実際に嗅いでみるとその例えに納得するもの、そうでもないものがある。同じ物質でも濃度によって大きく違った香りに感じられ、また人によっても敏感に感じる香りと感じにくい香りがあるという。濃度を一定に揃えることで、嗅ぐ側の個体差が明らかになるという訳だ。これらの香りを確認した上でワインを7種類テイスティングした。
■ きいろ香2006年 (シャトー・メルシャン:日本)
■ ソーヴィニヨン・ブラン2006年 (クラウディ・ベイ:ニュージーランド)
■ きいろ香にクラウディ・ベイと同等の3-メルカプトヘキサノールを加えたもの
■ ムルソー2005年 (アルベール・ビショー:フランス)
■ 新鶴シャルドネ2006年 (シャトー・メルシャン:日本)
■ シャトー・ピション・ラランド1998年 (フランス)
■ シャトー・パヴィ・マカン1998年 (フランス)
最初の3つでは、3-メルカプトヘキサノールの量を比較している。クラウディ・ベイの方がブドウが熟しておりグレープフルーツ的な香りがはっきりとある。ならばその成分をきいろ香に加えれば……美味しくなるどころか、やけにどぎつく匂う。果実味もアロマも隠されてしまって、バランスが悪くなっている。香りの素を加えれば香りが良くなる、という訳ではないと分かる。
次の一対はフュランメタンチオールの含有量が違う。ムルソーに1リットル当たり5ナノグラム、新鶴には20ナノグラムある。「直接的にコーヒー香として感じるよりは、重さや支え的な風味として感じる」という説明で、なるほど新鶴にこってりとした重みと香ばしさがある。
最後の一対は赤ワインである。先の白ワインに入っていたのと同じフュランメタンチオールの含有量が違う。上級ワインを使った分析によると、ピション・ラランドのようなメドックには多く、パヴィ・マカンのようなサンテミリオンには少ないという全般的な傾向が見られたという。
ではどんなワインが美味しいのか?>>