ワイン/特別な日の高級ワイン

秋の夜長に、とろとろと。日本の貴腐ワイン

甘い甘い、甘美なネクタアを飲みませう。婦女子の飲み物と侮ってはなりませぬ。通を気取って一口飲めば、杯は止まらない。いつの間にやらとろり、とろり……

執筆者:橋本 伸彦

カビのついたブドウ

林農園では昔から、灰色カビ病に悩まされた。カビの付いたブドウなんて、ワインに使えないじゃないか。困ったものだ。そう思っていたという。だが、灰色カビが熟した白ブドウに付くと、しなびてレーズン状になったブドウからは恐ろしく凝縮した、独特の味わいのとろりとしたワインが出来る。貴腐ワインである。貴腐ワインが出来るかもしれない。このことに気付いたのが1993年だった。見事な貴腐ワインの誕生したヴィンテージだった。

ボトルの肩から透かして黄金色の背景が見える
透明なボトルを通して見える、黄金色に輝く液体

国産トップクラス

それから5年後、1998年に造ったワインが、2006年の国産ワインコンクールで金賞を獲得する。日本全国から応募した500以上のワインから、今年はたった5本が金賞となった。その中に選ばれたということは、日本でもトップレベルと考えていいだろう。いや、そんなことはたいして重要ではない。このワインをひとくち含んでみれば分かる。まず、たっぷりのとろみがある。そして、アプリコットジャムか黄桃シロップ漬けのような果実味。熟成感を示す、木材のような風味も、かすかに感じる。甘さが突出しておらず、きりっとした酸味や果実味などの要素とバランスを保ちながら、しっかりバランスが取れている。

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