冷たいキールで始める食事は


セミがジリ、ジリ、と鳴き始め、夕方にサアッと大粒の雨が降る。夏の始まりだ。暑いなあ、といってそうめんなどサッパリしたものを食べる人もいるけれど、私は夏にフランス料理を食べに行くのが好きだ。シャワーを浴びてパリッとしたシャツに着替え、ちょっと汗をにじませながらお店のドアを入るとたいていはひやっとした、静かな空気が迎えてくれる。「何か食前酒は召し上がりますか?」と尋ねられれば、なんといってもキール。

ワイングラスに入った透明で紅色のキール
よく冷やしたキールは涼しさへのプレリュード

私の愛好するキールは、白ワインにカシスのリキュールを混ぜたカクテルである。赤ワインより少し薄い紅色をした、一般に良く知られた食前酒だ。スタンダードな食前酒というと、フランス料理を食べ始めた頃は、あまり気にも留めずに時おり注文する程度だった。

キールを作るのは簡単
しかし、これはシンプルなだけに奥の深いカクテルである。リキュールとワインの割合、混ぜ加減、そして冷やし加減によって、夏はさわやかに、冬は甘美に仕上げることができる。個人的には、フランスのサン・テティエンヌという町にあった三ツ星レストランで華やかなアミューズグールとともに飲んだキールなど、薄く霜を帯びて輝き、忘れ得ない美味となった。

何しろ食事の前に少し甘いものを飲むといういささか「掟破り」なところが愉快ではないか。ちびちび飲みながら、気まぐれに前菜と合わせてみたりしても、甘いから合わないとも限らない。たとえば鶏やうなぎなど脂や独特の香りがある素材は、カシスがしっかりと受け止める。辛口の赤ワインよりも却って料理を選ばない。気さくなキャラクターである。