中国茶/茶器・茶道具

東洋陶磁美術館で素晴らしい茶碗に出会う(2ページ目)

大阪市の東洋陶磁美術館には、中国韓国を中心にした素晴らしい陶磁器が沢山収納されています。その中から茶碗2点を紹介します。

執筆者:平田 公一

油滴天目の素晴らしさ



国宝 油滴天目


東洋陶磁美術館といえば、何をおいてもお茶好きの方にまずご紹介しなければならないのは、南宋時代に焼かれた「油滴天目(ゆてきてんもく)」という茶碗です。

日本の茶道においても「黒いうわぐすりのかかったすりばち形の抹茶茶碗」として非常に有名な天目茶碗。しかもその出来具合が素晴らしく歴史的な経緯も加わって、国宝に指定された素晴らしい茶碗です。

天目茶碗という名称は日本で生まれたもので、もともと代表的な語源とされる説としては、鎌倉時代に中国に渡った禅僧たちが天目山から持ち帰ったために、天目茶碗と命名されたという話があります。

製造は南宋時代(1127-1279年)で、「天目」と名称がついていますが、天目で焼かれたのではなく、この時代を代表する建窯(けんよう)で焼かれたものです。天目の名は初めは建窯の茶碗、すなわち建盞(けんさん)だけに限られていましたがその後各地で作られる茶碗も天目の名前がつけられるようになったとか。

建窯は、中国を代表する陶磁器産地で、現在の福建省にあり、もともとは建甌県、その後建陽県水吉鎮に属しているために「建窯」と呼ばれるようになりました。もともと建窯では、唐代の団茶用の青磁茶碗が焼かれていましたが、宋代に流行した抹茶向きに改良された天目茶碗がこの建窯で生まれ、中国中に広がりました。

じつは、この建窯で焼かれる天目茶碗は、鉄分を多く含んだ黒い釉薬を使うという特徴があります。通常は黒釉で焼かれると、茶碗の表面は黒い無地で焼きあがるのですが、時に窯変(ようへん)と呼ばれる偶然のなせる業で、とても美しい文様が現れることがあります。その文様によって、油滴(ゆてき)、曜変(耀変、燿変/ようへん)、禾目(のぎめ)と呼ばれるような文様が生じます。土と黒釉の成分、焼成温度と時間など、さまざまな条件が奇跡的に整ったときだけに生まれるもので、同じものが生み出されることはないともいわれています。そのため、見事な窯変をなした茶碗は大変貴重で珍重されたわけです。

前置きが長くなってしまいましたが、この東洋陶磁美術館に収蔵されている油滴の天目茶碗は、それはそれは見事なもので、現在国宝に指定されています。

もちろん、日本に現存する天目茶碗としては、静嘉堂文庫美術館に収蔵されている国宝の「曜変天目茶碗(稲葉天目)」がありますが(曜変天目は世界に3つしか存在していないと言われます。)、それに劣らぬ美しさを持った茶碗です。

「油滴」とは、その名のとおり「油の滴」のように金、銀、紺に輝く斑文が、茶碗の表面や内部にびっしりと現れている様を言います。中国では「滴珠(てきしゅ)」と呼ばれているそうです。東洋陶磁美術館収蔵の油滴天目は、名前の通り、黒い地に細かい斑文がビッシリと入り、口縁の部分には、純金の覆輪が施されています。東洋陶磁美術館の収蔵品解説に油滴の輝きと姿の美しさから「油滴中の油滴」と称された旨の記載があるとおり、一見の価値がある美しく荘重な茶碗です。

この油滴の天目茶碗も世界に7、8点しか存在していない貴重な茶碗で、代々、関白豊臣秀次(秀吉の甥)、西本願寺、京都三井家、若狭酒井家などに伝わってきたといわれています。

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