パンを焼く第二の人生

石窯パンを焼いて10年。下田中心街から車で20分ほどの、伊豆の最南端に「森のおくりもの」 をオープンしてからは5年。定年退職後の第二の人生で、パンを焼くことを選んだ増田光男さんは、奥さまの逸美さんと共に、週末の3日間を自家製の石窯でパンを焼いて過ごします。

一日一窯、「森のおくりもの」のさまざまなパン

10年ほど前、銀行員だった増田さんは、将来住むために建てた山の家で、週末ごとに家庭菜園や温泉を楽しんでいました。そんなある日、田舎暮らしの本に紹介されていた石窯づくりに、彼は大きく惹かれます。これは面白そう!それから半年近くして、自作の石窯が出来上がりました。

パン職人は自分の店を持つとき、何より先に窯のことを考えるものですが、このとき増田さんはパン作りの経験もなく、ただ純粋に、石窯が作りたかったのだそうです。そして、窯が完成してから本屋さんで求めた一冊の本が、独学でパンを学ぶ上での先生となったそう。(ちなみにその本はベッカライブロートハイムの明石克彦さんの本でした)

それからパンを焼くことが面白くてしかたがなくなった増田さんは、週末のパン焼きを楽しみにするようになりました。彼が週末ごとに焼くパンは、ご近所や職場など、周りの人たちに好評を博し、やがてパン屋さんを開くことになったのです。

石窯パンのおいしさ

ハードトースト(1.5斤 550円)

石窯は電気やガスの普通のオーブンとどう違うのでしょうか。

楢(ナラ)、桜、クヌギなどの薪が燃え、「やわらかい火」になります、と増田さんは言います。 石窯は遠赤外線輻射熱で、パン生地の外側からでなく内側から、ふっくらと焼き上げることができるのだそうです。だから皮がパリパリ、中はしっとり、ほどよい弾力を持つのです。

森のおくりものの定番、「ハードトースト」は、しなやかでやわらかく、トーストするとサックリと軽く、こうばしさを増します。毎朝食べたいような食パンですが、その美味しさの秘密は厳選された素材にもあるようです。

厳選素材でパンを焼く

森のおくりもののパンは、牛乳、バター、卵を使わず、砂糖の代わりに地元産のハチミツを使ったり、油脂としてオリーブオイルやオーガニックのトランスファトフリーのショートニングを使っています。

それが、ご飯に近いプレーンな味わいで、毎日食べたい気持ちにさせるのでしょう。増田さんの朝食は、「菜園の野菜、親戚がつくっている卵、味噌汁、わさび漬けなど、お米がパンに代わっただけの食事です」というからまさに、そんな感じ。

みかんパン(1斤600円)

「みかんパン」には地元のみかんの皮を砂糖煮にしたものが入っています。大量に入っているわけではないのに、この香り……!その時期に採れる、一番おいしい旬のものを使うと、こんなにもゆたかな香りがたつのでしょう。写真のパンに入っているのは下田の夏みかんでした。春から11月中旬までは夏みかんや伊豆特産のニューサマーオレンジ、冬は柚子、春先は伊予柑でつくるのだそうで、みかんパンは味覚も嗅覚もよろこばせてくれる、贅沢なパンです。

ブルーベリーパン(250円)

ブルーベリーのパンは北海道産小麦を使い、自家製のレーズン酵母種でつくられていて、フルーティな香り。上のふたつより生地が密に、重めになりますが、クラスト(皮)が薄く、ほどよい弾力を持ちながらも、やわらかいパンです。