パン/パン屋さん取材レポート(東日本)

プレーンな食パンを一番の売りものにする ロコ・パン

さまざまなパンが氾濫するこの時代に所沢のロコ・パンは毎日食べられるプレーンなパンを一番大切に考えるパン屋さんです。種類は少なく、クリームパンやあんぱんもありませんが、毎日の食卓のためのパンがあります。

清水 美穂子

執筆者:清水 美穂子

パンガイド

パンが大好きなパン屋さん

子どもの頃、母が毎日のように焼いてくれたバターロールは、どこにも売っていない、うれしい味がしたものです。世界で一番美味しいパンは、誰かのためだけに、家で作られるパンかもしれない、と思います。

ロコ・パンのバターボール(おいしそうな名前!)を初めて食べた時、そのことを思い出しました。 やわらかくて温かい匂いのするパン。

そのパンを焼くのは小谷信和さん。ロコ・パンという店名の由来はローカルのロ、小谷のコで、「地元の小谷君がやっているパン屋ですよ」という意味だそうです。

パン職人になってよかったことは、毎日パンを作ることができて、食べられること。毎日パンのことを(お客さんの100倍も)考えていられること。本当にパンが好きな人なのです。


イギリスパン。ポップアップ式のトースターできつね色に焼きたい。

プレーンなパン生地を主役にする

小谷さんのパンの特徴は、種類がそれほど多くないこと。プレーンな食パンを中心に、バターロール生地のパンもフランスパンも主役は生地と思って作っているところ。バラエティをもたせるために使う素材もチーズ、ごま、レーズン、メープルシュガーなど必要最小限、いたってシンプル。子どものよろこびそうな動物パンの中にも、餡やクリームは入っていません。

パン屋さんだからパン生地が主役なのはあたりまえですが、生地以外のところを注目されがちな最近の傾向を考えると、ロコ・パンのような店は貴重です。

ロコ・パンの開業と今

パンが大好きなサラリーマンだった小谷さんは、27歳の時、銀座で食べたビゴの店のバゲットに感動してパン屋さんになることを決意しました。
開業資金をためながら働き、何軒も断られたあげくやっと入れてもらえたパン店で修業し、独学もして、ロコ・パンを開店しました。運命のバゲットに出合った日から7年が経っていました。

最初は、お金をかけずに中古の機械と手作りの店舗からスタート。パンが売れて利益が出ると、機材を入れ替えるというふうにして徐々に店を作っていきました。
「お客さんからいただいたお金を、パンをもっとおいしくするために使えるなんて最高のお金の使いかただよなぁって思います。」


笑顔が素敵な小谷さんご夫婦
取材中、お子さんたちが学校から帰ってきました。工房の裏には勉強机。
まだ町が眠っている早朝に出勤する小谷さんに遅れること数時間、奥さまが子供たちと店にやってきます。子供たちは店から学校に通います。夕方は家族皆で帰宅。
「小さなパン屋は家族で仲良くやるのが楽しいと思いますよ。家族で同じ夢に向かって生きていくのって、最高に幸せなんじゃないかなぁ。」という小谷さん。だからこの人のパンは、家庭的な温かさがあるのかもしれません。

次のページではロコ・パンのパンをご紹介します。
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