『ふじの里』は開店3年目、関さんはこのお店をはじめる前は実はテナント管理会社側にいた人だった。この店は前のテナントが撤退した後一念発起、縁があってはじめたうどん店だ。経営状態なども含めてアドバイスや指導する立場から逆に自分が経営する側にまわったわけだ。もちろん飲食店を自分で直接切り盛りした経験が豊富だったとはいい難いが、逆に自分の理想を追い求めることができたという。
それはある製麺機会社との出会いだ。以前のお店で出していたうどんがどうも気に入らない。それはどうもうどんの製造方法に原因があると結論付ける。そしてうどん作りの研究に没頭する。その時出会ったのが今使っている製麺機とその製麺技術だ。そして『ふじの里』のうどんの秘密もここにある。
〈13ボーメ加水56パーセントの意味〉
一般的に手打ちうどんでは加水が多い、それでも50パーセントくらいだ。そして機械打ちの場合は一般的には35パーセントから40パーセント。50に近い場合は寝かし時間や鍛え方に工夫を凝らすことが多い。35パーセント程度なら粉に加水してそのまま圧延していくという手法が取れる。数行程でうどんにすることができる。しかし56パーセントの加水ではこの方法は取れない。なぜなら生地が柔らかすぎて上手く圧延出来ないのだ。
〈食感重視の製法〉
関さんがこの加水にこだわるのはやはりその食感だという。固いとか柔らかいというより優しい食感を出したいという。その優しい食感は大変微妙でその日の湿度や茹で時間に影響が出る。ミキサーで捏ねられた生地は1日寝かされて翌日うどんになる。生地を触らせていただくとビヨーンと伸びる。平らにすると端が垂れ下がる。麺棒に巻かれて保存される。手打ちでもできない加水量である。この生地を2度ローラーにかけて麺に切り出す。切り出した麺は手で持てば伸びてしまうから切ったところから釜に入るようになっている。お湯に投入されれば、たんぱく質とでんぷんは硬化してうどんとなってそして熱で茹で上がる。この不思議な多加水麺、気がつく人は居るのだろうか。
〈食感〉
もう一度食味を検討しよう。決して柔らかくは無いのだ。メールをもらった時は柔らかい麺を想像したのだが、正直にいってはじめて食べた時は適切な表現ではないのだが、冷凍麺的な腰の強さを感じたのだ。あめ色に近い透明感とつややかさと押し返してくる食感はいわゆる機械打ちのうどんには無い感触だった。使っている超高級小麦粉の銘柄をお聞きして少し驚いたものだ。
うどんの食味のファクターは固さ、柔らかさ、弾力、滑らかさ、喉越しなどの言葉が使われるが抽象的である。そしてまたうどんの面白いところはいろいろな調整が製造段階でリカバリーできることだ。たとえば同じ小麦粉を加水条件を変えて作ればまったく違ううどんになる。塩分濃度もそうだ。寝かし時間も大いに関係する。その日の気温湿度も大きく影響する。そしてそこに店の個性として粉の選択や最終的にどのようなうどんに仕上げるかという意思決定が反映される。しかし毎日同じようなうどんに仕上げなければならないからプロは大変なのだ。
機械製麺だがそのノウハウは素晴らしいものがある。いつでも茹で立てしか出さないうどんは輝いている。研究に熱心な店主の居る、この地のうどん好きは幸せである。この『ふじの里』のうどんはキャッチフレーズが無い。讃岐とか水沢とかいう呼称がない。きっと関さんは考えているはずだ。・・・『究極のうどん』
ぜひ目指して頑張って欲しい。でもたまには休んだほうが良いですよ。
『ふじの里』DATA
神奈川県横浜市港南区港南台3-1-3
港南台バーズ3階
電話:045-833-7281
営業時間:午前10時~午後10時
無休