【一子相伝の技法】
稲庭うどんは上品な美味しさで人気だ。手間を惜しみなく使った製造工程は手打ちうどんとはまた違った魅力がある。製法はうどんというよりも素麺の作り方に似た手延べ、手綯(てない)の技術だ。五島うどん、氷見うどんとも似ている。製法の伝来に関係が有るとされているが定かではない。素麺との違いは製造工程で油を使わないことである。もちろん太さは稲庭うどんのほうが太く平たい。捏ねから完成までやく3日を要する大変手間のかかる製法を今でも続けている。
稲庭家一子相伝で300年伝えられた技法は現在では稲川町にある佐藤養助商店に受け継がれ、地域の特産として日本全国に知られるようになった。もともと江戸時代の秋田藩への献上物という性格や宮内庁御用達などの高級進物品としての性格から、地元で気軽に食べるというものでは無かった。そのため長いこと本場とはいえ名物を食べさせるような店は地元にも無かったようである。現在は地元には『七代佐藤養助本店』、『本補稲庭堂』などがある。
この『佐藤養助商店』と並んで有名なのが今回訪問した『寛文五年堂』だ。ここのうどんはいろいろな料亭や料理屋でも使われている。もちろん稲庭うどんをメインとしたうどん屋でも使われることが多いブランド品だ。この銀座店は寛文五年堂直営店である。
寛文五年堂ざるうどん 1.000円
【稲庭生うどん】
寛文五年堂は、寛文五年(1665年)に佐藤吉左衛門(のちに稲庭姓)が干しうどんの製造を始めたとされているその年号を屋号にしたものだ。銀座店は開店から19年ほど経つそうだ。稲川町の工場では今も手作りの昔ながらの製法で稲庭うどんを製造している。
稲庭うどんは本来は干しうどんで3日間かけて製造される。この3日目の乾燥行程を途中で止めて製品化するのが稲庭生うどんである。いわゆる乾麺の稲庭うどんとは違った食感が楽しめる。この生麺を目的に銀座店を訪ねてみた。もちろん普通の稲庭うどんも比較のために食べたのは言うまでも無い。
なめらかな食感が秀逸
干しうどんのざるうどんは見た目も美しくざるの上に氷を敷いてその上に盛られてくる。小鉢、汁瓶、薬味皿と調和した膳としてでてくる。手繰るとつるりと喉に吸い込まれるような喉越しが気持ちよい。鰹節ベースの汁も上品だ。気分も優雅にすこし落ち着いて食べよう。そんな気持ちにさせてくれる風情がある。さて生稲庭うどんもいただくことにしよう。盛り付けは同じだ。もっともざるうどんを頼む時に普通か生かを選ぶことができるのだ。
【驚きの食感】
生稲庭うどんは・・・正直びっくりした。その食感は腰の強さ、伸びやかさ、喉越しが驚異的なのだ。
うーん口が喜んでいるのだ。いや口だけではなくて喉も食道も胃袋さえも・・・もちもちした食感でなおかつ噛み切れない弾力。喉をくすぐりながら胃袋に落ちていく。めちゃくちゃに気に入った。長く製造に関わる関係者だけが密かに楽しんでいたという秘密の味である。乾燥させないということは日もちしないということで今日のような冷蔵流通形態がない頃には生産現場限定の味だったのだろう。
今では限定品ではあるが寛文五年堂の通販でも買えるのは嬉しいことである。でもお店でドンピシャリに茹で上げられた麺をいただくのがベストだろうか。
優しい食感のかけうどん900円
温かいうどんも魅力的である。シンプルに『かけうどん』をいただくと鰹風味のつゆに泳ぐうどんが美しい。なめこと三つ葉の彩りがシンプルながら印象的だ。温かくても食感はよく、程よい腰を保っている。つるつると滑らかに吸い込まれていく。
伝統に培われた稲庭うどん、ちょっと気取って食べてみるのも悪くない。というより独りで食べるより誰か素敵な人と一緒に素敵に上品に江戸時代のお殿様や明治時代の上流階級気分で食べてみるのも良いと思う。
お店はそんな気分にもさせてくれる落ち着いた雰囲気を持つ。
メニューはうどんを中心に一品料理やコース料理が充実している。夜の宴会などにも幅広く対応してくれそうだ。
【DATA】
寛文五年堂 東京銀座店
〒104-0061
東京都中央区銀座7-6-5 石井紀州屋ビル1階
Tel.03-3571-6076 Fax.03-3571-0741
座席数72席
営業時間
●平日 11:30~14:00・17:30~25:00
土・日・祭日 11:30~15:00 ・17:00~21:00
寛文五年堂WEB