2つのソースを
次なる皿はブルターニュ産ヒラメのポワレにバジル風味のソースが敷かれているのだが、そこに直前に赤ワインソースを添える。個性ある2つのソースがヒラメの媒体にして絡み合うが、お互いとても仲がいいのか、ヒラメにふくよかさを与えている。濃厚な料理だが、ソースは意外にしつこくなく甘みと酸味とのバランスがとてもいい。残すのはほんとうにもったいない。いや、このソースならパンにつけるよりご飯にかけても美味しいだろうと、そんなことを考えながらお腹一杯にふくらんだお腹をさすりながら、この時点で今夜のディナーは「やばいな」と思うようになる。でも先のことを気にしていても仕方がない。出てくる料理と向き合うだけだ。マトロート仕立てのブルターニュ産ヒラメ |
さて、メインのセル・ダニューはこれから。ココットで運ばれ、給仕長自ら切り分ける。内臓も添えられ、ガルニは太いアンティショー、そして細かく刻まれたドライフルーツが振りかけられるが私にはこれは必要なかったかも知れない。ソースは肉だし汁を丁寧に煮込んで作られた最高のものだろう。やや残念だったのは焼具合をレアと頼んだが、かなり火が入っていたこと。ほとんでレアでもよかったのだが。。。
羊の内臓もたまらなく滋味深いもの |
給仕長の目の配り方、話を切り出すタイミングは完璧だ。ソムリエは一滴にまでも丁寧にワインを扱う。ボトルの持ち方、注ぎ方、タイミング等々ワインを扱う姿勢は非常に印象的だ。
このあとオステルリッツ駅まで行ってロワールのブロワまで行かないといけないのでそろそろ出ないといけない。三ツ星レストランにたった2時間半というのは実にもったいない話なのだが、仕方ない。
「美食のテクノロジー(辻芳樹著・文芸春秋)」の中でアラン・デュカスの哲学について触れている。その中でも「尊敬-他人も自分の一部であること」そして「記憶-どこに向かっているかを知るためにも、どこから来たのかを忘れてはいけない」という言葉は料理と同様に強烈だ。
羊料理は目の前で盛り付けられる |
たった一度の機会でこのレストランのすべてを語ることなどできはしない。しかし、偉大な先人が積み上げてきたフランス料理の歴史が正統なルーツの中で21世紀の王道を行くフランス料理として存在し、それが受け入れられているということはひしひしと感じるのである。
帰り際、サービスを担当してくださったマダム・アリザは僕に小さなプレゼントをくれた。今日のメニューとアラン・デュカスのブランド入りのゲランドの塩だ。きっとこの塩はいつの時代もあらゆる料理人のそばに置かれていたものに違いない。
アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ(パリ)