壱岐の島から長崎へ飛ぶ

長崎は遠い昔、キリスト教弾圧が繰り返し行われたという悲しい歴史を持つ場所。長い鎖国時代に異国の宗教、文化や食べ物をとまどいながら受け入れてきたのだろうなと感じさせる、どことなく控えめだがしっとりと美しい街だ。昨年来、九州のレストランを取り上げる機会が多い。どういう訳か仕事関係で九州方面に呼ばれることが多く、その都度地元の郷土料理、そしてその街にあるフランス料理店を訪れることは至上の楽しみのひとつになっている。今回は旅先の壱岐の島から長崎へ飛び、そして福岡に戻るという強行軍。それは長崎に昨年開店したパティスリー・カミーユの上柿元勝氏にお会いするためだった。
長崎
モダンなエクステリア

上柿元勝氏の経歴は日本のフレンチガストロノミーの成長そのものかも知れない。1974年にフランスに渡り、パリの「ル・デュック」、「ジャマン」、ミヨネーの「アラン・シャペル」、ヴァランスの「ピック」、ロワンヌの「トロワグロ」など当時の現代フランス料理の最高峰で腕を磨き、1981年神戸ポートピアホテルにある「アラン・シャペル」開業のため帰国、同料理長を務めた。

1991年よりハウステンボス場内5つのホテルの総料理長、及びホテルヨーロッパ総支配人、ホテル本部の名誉総料理長に従事。今年1月にハウステンボスを離れるまでに天皇皇后両陛下をはじめ、モナコ国王、オランダ王子など数多くの国内外VIPの晩餐を担当し、ホテルガストロノミーの第一人者として多くの料理人に影響と薫陶を与えている。

現代フランス料理界に最も大きな影響を与えたアラン・シャペルの血を継ぐ料理人として、カミカキモトの名は未だ揺るぎない名声を誇る。アラン・デュカスにインタビューしたときに日本の料理人の中で真っ先に名前が出たのが「カミカキモト」だったことは記憶に新しい。

「ムッシュ」と呼ばれる彼が、料理人人生の多くを過ごした長崎に開いたのが「パティスリー・カミーユ」。長崎駅から路面電車でわずか3分、銭座駅の目の前に10月オープンしたココウォークという商業ビルの1Fだ。屋上には観覧車や映画館、フードコートがあり全体的には若者向けのビルという感じなのだが、1Fはちょっと雰囲気が変わる。バスターミナルと本屋がある程度の静かなフロア。そんな落ち着いた場所にキラッと輝きを見せる空間が「パティスリー・カミーユ」。

最先端のガストロノミーからデザートの世界へ。これはまさに極上デザートの日常化にあるのだろうか。ブティックで買って帰り、それは自宅で極上気分を味わえるものでなくてはならない。いらぬ飾りをすべてそぎ落とし、本質のみまとめ上げ、一つの形に閉じ込める技術。熟練の技に新しい風を吹き込み、一つひとつ、じつに丁寧に仕上げられる。

20席ほどの店内はレリーフの施されたクリーム色の壁紙に、上柿元氏が好むブルーがポイントされ、高い天井空間と溶け込む。クラッシックが流れる日当たりの良い窓際の席、リモージュはベルナルトの食器で頂けば、同じケーキでも味わいが変わるというもの。「本店は東京のどこにあるの?」と聞かれることもあるという。
長崎
カフェ気分が満喫できる店内