フレンチ/全国のフレンチ

島原と熊本のフレンチ(2ページ目)

島原の風と海、熊本の水。九州には土地の食材を見事にフレンチに変える力がありました。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

フランス料理
秋には多くのジビエが揃う個性的なレストラン

熊本は山海倶楽部

さて、まずは初日の熊本。熊本と言えば肥後どこさ、なのだが、まず有名なのは馬刺しといった馬肉料理と焼酎。しかし、名物に旨いものなしかどうかはわからないが、熊本の夜をアテンドしてくださった友人が私を連れて行ってくれたところは、『山海倶楽部』と言う地場の名物料理など一切おいていない「西洋料理」の看板を掲げるレストランだった。
モダンなビルの一階に入る山海倶楽部は正面にカウンター、そして両サイドに席が用意されており、高い天井が開放感を演出する。

驚いたのは肉料理の豊富さだ。
コルベール(青首鴨)、ペルドロー(ヤマウズラ)仔イノシシ、フェザンヌ(メスキジ)、蝦夷鹿、カヌトン・クロワゼ(幼鴨)などなど。この他にもイベリコ豚、仔羊、熊本産黒豚、鹿児島産黒毛和牛など、揃うわ揃うわ獣肉のオンパレード。東京でもこんなレストランはほとんどない。

フランス料理
品質も値段もびっくりだ
黒板メニューを見ていると私の体の血は高速で流れ出し、ワインを口にしていないにも関わらず体は火照り、食べることに我慢ができない気持ちは暴発寸前まできていた。「うっ、全部食べ尽くしたい・・・。」

山海倶楽部は何もフレンチだけに絞ったメニューだけではない。パスタもあればカルパッチョもある。その意味で西洋料理と看板を出しているのだろうが、肉料理に関してはまさにフレンチの伝統的な手法でソースを作りあげているとみた。

オーナーシェフの前田嘉徳氏はこう話す。

『うちは手に入る限りの極上の食材を使って、本物の食材だけが持つ、深く、香り高い味わいを堪能していただくための西洋うまいもの屋。その食材は自分の「目」と「足」と「舌」で探し出したものが日本中、世界中から届けられる。そして、味わいの糸で<喜び>を彩ることを大切にしたい』。

フランス料理
美味しそうな笑顔ではありませんか
人間が関わる素材ではなく、人間の手から離れたところで育まれる自然の素材を日本のみならず世界中から集めて、シンプルにシンプルに料理人の技術を染み込ませる。こんなレストランが熊本にあったとはうれしい驚きだった。

シェフの前田氏はごらんのとおりの幸せそうなお顔。この人のもとで仕事をしたい、と思う料理人はきっと多いに違いない。

二人でコルベールを一羽シェアしてボルドーのワインを肴?に流し込む。血のソースはワインと共に煮詰められるとやさしい味わいに姿を変え、コルベールのぎゅっとかみ締めると音が出そうなくらい締まった肉から放たれる心地よい苦味と一体となる。ああ、幸せだ。トレビアン、熊本!

お茶漬け
さくっと食べてさくっと帰るお茶漬け専門店だ

お茶漬けの「どろや」

そこそこの満腹感と酔いをもって次なる店は、熊本なら知らない人はいない言われている「お茶漬け専門店どろや」。8人も座ればいっぱいのカウンターに4人席がひとつ。22時くらいに行ったが満席だ。しかし、待つこと数分。さくさくっとお茶漬けを引っ掛けたゲストはすぐに席を立つ。

3種類の小さなお茶漬けがいろんなパターンの中から選ぶことができる。3つ食べて800円でお釣りがきたように思うが、食べていて楽しく、まさに〆にはもってこい。ひっきりなしにお客さんが来店するが、5分以上は待つことはなさそうだ。考えると脅威の回転率。これで満足度が高いのだからすごいよ、どろや。ちなみにお酒は置いていない。

女性二人でやってらっしゃるようだが、その明るすぎる笑顔とトークにファンは多いと聞く。酔ったあとに来るゲストのにこやかな顔写真ばかり載せたブログも楽しい。気がついたら私も載せていただいていた。私は「どろや」がとても気に入ってしまい、翌日も出かけてしまった。
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