メインダイニング
すべての空間がゲストのためのもの。
吉村氏は冷静に語る。新聞等で書かれた「1億6000万円で営業譲渡、業績不振で年間売上が1億円ほど」等々、まったくの事実に反することのようだ。当の吉村氏本人には取材は皆無。ということは事実が曲げられて伝わっているとみていい。

確かにあの土地と建物が1億6000万円で売りに出るなら、そりゃたいへんなことになることくらい素人でもわかる。もしそうなら私だって買いに行きたい。

吉村氏は笑いながら答えた。「単に株式会社ひらまつさんと定期賃貸借契約を結んだということです。まあ、株式会社ひらまつさんが借主で、私が大家ということです。建物も内装も汚れたところを直す程度で、ほとんどそのまま使うという条件でお貸しするのです。」

要は吉村氏がジョージアンクラブというレストラン経営から身を引き、単に家主になるということなのだ。

ジョージアンクラブは赤字でもなく、会社に借金もあるわけでもなく、売上が幾等なんでも僅か1億円でもなく、そこのところをよくない形で伝えられるのは吉村氏にはたまらなくつらいだろう。

個人がレストランを運営するのは非常にリスキーだ。ジョージアンクラブはそのワインの種類と値段において東京一でも特筆すべき存在とも言える。料理はそのコンテンポラリーさに評価は分かれるものの、「美味しくない」とか「流行ってない」という評判は特に聞かない。チーズもついた17000円のコースなど極めてリーズナブルと言ってもいい位だろう。

ワイン
ピュリニイ・モンラシエ・ル・ピュセル1994(エティエンヌ・ソゼ)完璧なコンディション。
しかし、あそこまで非日常を醸し出すジョージアン王朝時代の「ホンモノ」の内装は、最高峰の三ツ星レストランであるジョエル・ロブションのクリエイティブに作られた空間とはまったく異なるものだ。

クリエーティブとは対極にある文化的空間ともいうべきか。目新しさというものではないので逆にそれが新規顧客の「わっ、すごいけどちょっと違うな」というふうに思われてしまうことにつながるような気がしないでもない。

ロオジエやアピシウスはまさに非日常。ジョージアンクラブはそれを飛び越えた限られた層に対する、それも特別な非日常だったかのも知れない。

この空間は何年経っても色褪せることのない特別なものだろう。

ダイニングの響き。それはゲストが醸し出す僅かにエコーがかかった気品あるざわめきだ。そしてあの暗さ。日本人に迎合しない薄暗さ。キャンドルがあって初めてメニューが読めるくらいの明るさ。まさにヨーロッパのレストランそのものだ。それがジョージアンクラブの価値を物語っている。

そういった意味で、ひとりのオーナーの考え、他店が決して真似のできないインテリア、設備、ホスピタリティといったものが揃ったジョージアンクラブは日本であまり語られることのないグランメゾンというものだったのかも知れない。