フレンチ/全国のフレンチ

思い出の一皿に会うために(西湖)(2ページ目)

夏を迎える前に必ず思い出すのが河口湖隣の西湖畔にあるレストランボア。時代を感じさせるごく普通の喫茶店のようなところには私の心に深く刻まれた、一皿の料理がある。それはフランス料理そのものだった。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

トマトのポタージュを目指し

西湖のほとりにある、ごく普通の喫茶店風の外観でこれはどうみても旨い料理が出るとは思えない。メニューを見ても当時はオムライスとか、ハンバーグとかいわゆる普通の洋食屋さん。春や秋にはヒメマスのムニエル、そしてワカサギのフリット、そして当時は石焼ステーキといったメニューもあった。

フランス料理
夕暮れ時から静けさに包まれる
その中で私が大好きだったのが、半熟卵が入ったトマトのポタージュスープ。クリームスープとトマトの風味が程よく調和し、中に入っている半熟卵を混ぜて食べたときの感覚といったらもう。。。

河口湖から足が遠のいて随分経つ中、私はその後多くの食材、料理を口にしてきたが、どうしても忘れられない味。そのスープを食べに行くというだけでうきうきしてしまう自分がいた。

一応電話をしたが、「はい~、もしもし~」とマダムが電話に出る。あ、やっぱり当時のままだ。これから行くということだけ伝えたが、名前さえも聞かれることはない。

河口湖は大石方面から西湖に向かう道はこのあたりで最も美しい道かも知れない。左手に富士山を眺め、夏本番を前にした夕暮れ時の湖は静寂という言葉がぴったりだ。そう言えば90年の冬、河口湖日刊スポーツマラソンに出場した私が友人達の応援むなしく倒れたのはこのあたり、26キロ地点だ、と思い出しつつボアへの道を急いだ。

実は行く前にボアを検索エンジンで調べていくと、「美味しんぼ」に出ていたことを知った。西湖で獲れるヒメマス料理について取り上げられていたのだ。ひょっとして何か変わっているかも知れない、と思いつつボアに着いた。

そこは15年前となんら変わらないボアがあった。
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