フレンチ/東京のレストラン

ここではじっくり料理と向き合いたい。 ル・マンジュ・トゥー(神楽坂)

ただひたすら「料理」とだけ向き合う時があってもいいではないか。「食べるためだけ」のために出掛けたいほどの小さくも偉大なレストラン、ル・マンジュ・トゥー。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

2005年6月末をもって一旦閉店し、同じ場所に翌年春に再開店予定です。

フォアグラ
濃厚であり繊細な鴨とフォアグラのソーセージ
言葉にできない料理とはこのことなのだろうか。ナイフを入れて鴨肉を口に含んだ瞬間に、これまで感じてきたフランス料理というものは一体なんだったのか!!と思うくらい気持ちが昂ぶる。いや、昂ぶるどころか震えが止まらない。気持ちを落ち着かせようとシャサーニュ・モンラシエを手にとっても、そのワインがさらに味わいを加速させて、だめだ、もう止まらない。

ル・マンジュ・トゥ。シェフの名は谷昇。食通の間ではもちろん有名な方。しかしその笑顔とはうらはらに恐ろしい料理人だ。2005年1月12日の夜、私はこれまで食べてきたフランス料理がすべて吹っ飛んでしまった!!

鹿
このコンソメを楽しみに一年を生きていきたいほどだ。
見えないところにじっくりとじっくりと時間をかけられた料理。コルベールとフォアグラをソーセージ仕立てにしてトリュフを添えた前菜。ジビエ特有のクセと香りと力強さが、噛むほどにどろどろと溶けてくる。一体いつから仕込んだのだろうか、見当もつかない。前菜?いや、これはもう前菜なんかじゃない。味わいは幾十にも広がり、五感すべてを均等に刺激し続ける。世の中にこんな味わいの料理があったのか?

コンソメスープ?私はホテルオークラのコンソメが一番だと思っていた。透明でコクがあり。。。しかし、「いったいどうしたらこんなコンソメが作れるのか??」それは「鹿のコンソメスープ」と聞いたが、液体が味覚すべてに纏わりつく。そう、噛むために存在しているような液体のようだ。さらに写真に見える鹿肉の串の柔らかさといったらそれこそ言葉に出来ない。

ル・マンジュ・トゥ
濃厚でありながら気品を感じるジビエの王様というべきリエーブル(野兎)
レストランとは本来時間を楽しむ場所というのが本質だと思う。しかし、ごくたまに「なんだ!この料理は!!」と感嘆し、言葉もなく黙って皿の上の芸術品と向き合うだけであったとしてもいいではないか。

厨房は2階なのでシェフの仕事ぶりはわからない。メニューもない。しかし、予約を受けたところからシェフの仕事は始まっているに違いない。ダイニングの謎めいたマダムが勧めるワインはどれもはずれがない。そもそもどれを選ぼうとも外すワインがない。

04年4月に訪れたときは冷製のフォアグラテーに黙り、羊のローストとトマトのスープにの強烈さに言葉がなかった。表現のしようがないと今回のように極めて独りよがりの記事になってしまう。

デザート
ショコラ総ざらえのデザートで夢見心地とはこのことか。
でもたまにはいいではないか、こんな内容でも。ほんとうに旨かったのだから。だからこそ読者の皆さんにお知らせしたい。たった14席、場所もわかりずらく、最寄り駅からは徒歩で10分近くはかかる。きっと万人受けする環境やサービスではないかも知れない。写真の料理もきっと一期一会に近いかも知れない。

食事をして数日経ったが、まだ気持ちの昂ぶりは収まらない。私はその夜、これまでのつたない経験がすっとぶ位、フレンチの奥深さと谷シェフの「一食への入魂」を感じたことだけは確かだ。

谷昇氏/52年東京都生まれ。六本木の「イル・ド・フランス」からフレンチの世界に入る。76年、89年と2度フランスへ渡り、アルザスの3つ星「クロコディル」などで修行をする。帰国後、六本木の「オー・シザーブル」などでシェフを務めたあと、94年に「ル・マンジュ・トゥー」をオープン。
2003年に柴田書店より「素描するフランス料理」を出版。料理人でなくても手元に置いておきたい一冊だ。


フォアグラ
ル・マンジュ・トゥー
東京都新宿区納戸町22
地図はこちら
03-3268-5911
地下鉄牛込神楽坂駅から徒歩7分
定休日/日曜日、月曜のランチ
直前予約ではなく、なるべく余裕をもった予約の方がよろしいかと思います予算はワインにもよりますがお一人15,000円程度でしょうか。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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