フレンチ/東京のレストラン

シャネル&デュカスの美食的スパイラル ベージュ東京(銀座)(2ページ目)

ブランドと美食のコラボレーションがついに実現した。しかしブランドチックな薀蓄にこだわらず、純粋に料理と時間を楽しみたい。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

味わいのスパイラル

ランチとディナーでは様子がまったく異なるのは都内でも随一かも知れない。昼は明るくカジュアルに、スタッフの靴もスニーカーだ。夜は銀座の夜景に包まれシックに、重厚に。メニューはもちろんワインリストも変わる。

ベージュ東京
ふわっとしたメレンゲの中には細かな味覚の渦が隠されていた。
ニューヨークはエセックスハウスにある店舗はやや重厚感あるインテリアだが、銀座は品の良いカジュアル。しかしカジュアルとは書いたが、そこはシャネルのベージュカラーに統一され、パン皿の色加減に至るまで「トータルな色加減」に統一されている。ふと思ったが和服で出掛けたらお洒落だろうなあ、と。

トップブランドのジョイントベンチャーとは言え、できたばかりなのでまだまだオペレーションにムラがあるのは致し方ないところ。ワインリストに早くも品切れが多数あったり、ワインの説明が機械的で「楽しくなかった」り、したりするのも生まれたてだからか。生身の人間はどんな場面でも成長にはある程度時間がかかるもの。

ベージュ東京
単純素材を調理技術で驚かせるのは「デュカスの魔法」か?
しかし、しかし、料理は素晴らしい。情けないことに私はアラン・デュカスの料理を食べたことがない。しかしその料理は日本のどのシェフが作る料理と違うことがきっとわかる。味わいのスパイラルとでも言おうか、味わいが舌の上で拡がっては収縮し、渦を巻いて体中に染み込んでくる。軽い味わいの料理でも長く後に引く不思議さが漂う。写真のイカのグリエも中はレアに仕立てられ表面のカリッとした食感とは違う微妙な歯ごたえを感じることができる。

調理技術の時代へ

アラン・デュカスは素材へのリスペクトという言葉を使うが「料理の美味しさ」は素材が一級品であることを前提とした技術レベルの高さにある。今や20年前とは違って空輸で新鮮な素材が全国から集る時代だ。保存技術にしても格段の進歩を遂げている。新鮮な素材を活かすも殺すも料理人の腕、センス、調理器具も含めての技術とそしてバランスなのだ。ベージュ東京の料理はそんなことを感じさせてくれる。

細かな話だが席に案内されるとシャネル(多分)の香りが漂うおしぼりがサービスされる。バターは2種類。無塩のものと海鮮類が細かく刻まれた塩の強いものだ。料理だけでなく、テーブルの上にあるものすべてにこだわりと気遣いが感じられる。

帰りがけにキッチンを見せてもらった。(フランスの高級店では掃除の途中でも気軽に見せてくれる)フランスから直接持ってきたという最新のキッチン設備はすべて電気調理器。これにより火加減が一定に保つことができ、ムラがなくなるという。そこは機能美の固まりのような別世界だった。

写真のタイトル
デザートは創造性溢れるもの
心ときめくデザートを創作するパティシエは可愛らしく、スーシェフのジェロームが気さくにゲストと写真に収まる。私がかつて何度も見てきたラムロワーズ同様の楽しいキッチンがそこにあった。フランスのキッチンはとにかく楽しい!!

ユニフォームはカール・ラガフェルドが特別にデザインしたもの。シャネルは男性用の衣類は作っていないので当然特注品となる。

まかないに日本食は出ない。近隣の某フレンチレストランから食事として取り寄せているとのこと。そもそも賄いという言葉がこのレストランにはないそうだ。すべてのスタッフがきちんとコストをかけた、ちゃんとしたものを食べているのである。

ゲストはことごとく名前で呼ばれ、フランス同様堅苦しい表情ではなく、いつも笑い顔が見える。とにかくオープンまでは想像を絶する毎日だったと聞く。お皿を200枚発注したが第一弾が届いたのはいいが中には半分も入っていなかった等々、アバウトなフランス的な仕事の進め方に戸惑いつつ、今となっては笑い話か。

ベージュ東京
ワインリストの充実はこれからか
今最も話題が集中しているレストランかもしれないが、このあと3年5年10年と存在し続けるとしたら、やはり「人」だろう。渋谷氏を筆頭に接客担当支配人の石田博氏、そして伊藤寿彦氏のコンビによるサービスに他ならない。開店間もないことからサービスの段取りは決してスムーズとは言えない。余裕をもって接客にあたれるのはもう少し時間がかかるだろう。

ランチタイムは6000円、8000円、11000円のコース、ディナーは17000円、22000円のコース料理(税込サ別)があり、2600円のアフターヌーンティーセットも用意されている。ハレの日のレストランと考えると妥当な値段だろう。

個人的に嬉しいのはサイトにある「基本的にレストランウエディング、貸切パーティーは承っておりません。」という一言。当面予約を取るのは難しいと思われるが、当日もしくは前日予約にトライしてみることを薦める。センスのいいレストランはほんの少しだけ美味しい席を残しておくものなのだ。

なお、セブンシーズの1月号にて「アラン・デュカス、美食の航海へ」という特集記事が素晴らしい写真と共に掲載されている。一見一読の価値がある。

■ベージュ東京
中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング10階
03-5159-5500
ランチタイム    11:30~14:30 ラストオーダー
アフタヌーンティー 14:30~16:00 ラストオーダー、16:30閉店
ディナータイム   18:00~21:30 ラストオーダー、23:30閉店
全席禁煙
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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