東京一パリに近いビストロ
これまでの「東京一高いビストロ」の看板が「東京一パリに近いビストロ」に変わったと言えよう。メニューは冒頭で紹介した30年前のものとは異なるが、パリのビストロには定番で並ぶものが吟味されて飾られている。魚のスープもフランスの味そのまま |
赤ピーマンのトマト煮込み ハモンセラーノと半熟卵、鴨のコンフィ、ツブ貝とエスカルゴバターのコロッケ、スープ・ド・ポワソンなどの前菜が14種、ほとんどが1000円台の価格設定になっている。メインについては豚すね肉のシュークルート、熊本産馬肉のタルタルステーキ、トリップのムニエルシェリー風味とポレンタ、ブッフ・ブルギニオンなど10種類、価格帯はほとんどが2000円台。その他チーズやデザートなど。ビストロだからゆえかデザートはケーキ、ソルベ、アイスクリームなど。
価格はすべて税サ込みになっていて10円とか5円とか端数がなく、とてもわかりやすい表記になっている。他のほとんどのレストランが税込表記に留まっているのに対し、これは個人的にはとても嬉しいことだ。価格表記に関してはまったくもってレストランのリファレンスモデルと言える。
古屋氏が新しい歴史を創るのはこれからだ。 |
ヴァン・ナチュールの力
そしてワインが変わった。特筆すべきはワインかもしれない。シャンパーニュはブランドブランの最高峰といっていいアラン・ロベールが超魅力的な価格でオンリストされ、その他ロワールやラングドックのヴァン・ナチュール、いわゆる生産時から化学肥料になるべく頼らない古典的な作り方をしている自然派ワインが数多く並ぶ。これらは日本で最も実力あるワインテイスターの一人、合田泰子氏が現地の生産者との長年の付き合いの中から選んだ「強さ」を持ったワインばかりである。特にアルザスやロワールのワインはぜひ味わってみていただきたい。これまでのブランド志向ワイン世界観が一気に崩れ去る衝撃に駆られるだろう。そんなワインがフルボトル4000円程度から楽しめるのだから、本物のワイン好きにはたまったものではない。
3000円代から揃う自然派ワインの数々 |
私自身、価格や産地に関わらずぼすべての銘柄を味わい記憶しているのだが、行き詰ってしまったのか昨年からワインに対するこだわりや愛情が少し薄くなっていってしまっていたのだ。こういうのを手詰まり感というのだろうか。そんな時、合田泰子セレクションの一つであるアルザスのワインに出会ってから世界は一変した。3週間前に明けたボトルに残されたわずかなワイン。それも単にコルクで栓をしただけの白ワイン。まるで今さっき空けたかのような瑞々しい力。「ワインというのは本来こういうものなのよ」とは合田さんの言葉なのだが、それは「ワイン自身が語りかけているものだ」ということが最近私もやっとわかりかけてきたばかりなのだ。
本物のアンティークに囲まれて |
シテに戻ろう
確かに新しいレストランは気持ちがいい。しっくりこないサービスも新しさや新鮮さやニュース性でカバーされるだろう。しかし、シテの床の減り具合、冷蔵庫の壁、ややくすんだ壁紙に残る歴史の汚れ、これはお金をかけても決してできることではない。30年の歴史を背負いつつ自らの道を耕す古屋シェフの料理とヴァン・ナチュールのマリアージュ体験は私たちにきっと何かを残してくれるに違いない。さあ、今週は気軽に旨いフレンチ、ワインを飲みたいな、と思ったら出掛けよう!シテの食卓に。
■ビストロ・ド・ラ・シテ
東京都港区西麻布4-2-10
03-3406-5475
六本木通り西麻布近くのアマンドを曲がり、いわゆるビストロ通りを進み約100先左側
地図
営団地下鉄日比谷線 六本木駅から徒歩10分
営団地下鉄日比谷線 広尾駅から徒歩7分
ランチ 12:00 -14:00
ディナー 18:00- 22:00
月曜日定休ですがご相談に応じるとのこと。