歴史を継続するということ

飲食店を開くことは物理的にそう難しいことではない。まずお金があって(お金を出してくれる人がいるということも含めて)、料理を作る人がいてサービスする人がいて、場所があれば誰でも出来る比較的参入障壁の低いビジネスなのである。いくら不景気でも新しいレストランが次々と開店するのは別に驚くほどのことでもない。脱サラで飲食店というのはいい例だ。

しかし参入障壁が低い反面、非常に難しいのはその飲食店を5年10年と続けて「歴史」を創っていくことなのである。開店当初は友人知人のサポートや幸運にもマスコミに取り上げられたりと、賑わいがあって当然だろう。しかしその飲食店の実力は開店後2年から3年くらい経ってから評価されることになる。

写真のタイトル
魚料理は繊細で優しくしっとりとたソースで
レストランFEUは1980年の開店だからもう25年近くの年月が経とうとしている。1980年と言うと西麻布にビストロ・デ・ラ・シテや六本木のオー・シザーブル位しかなかった時代である。(ひらまつ亭やクイーンアリス、アピシウス、シェ・イノなどは1982年以降の開店)

店名のFEUはフランス語で炎を意味する。創業時のシェフは「小川軒」出身の吉田実生氏、その後白鳥恒夫(現世田谷しらとり)、谷川貴俊、三上敏行(現中目黒ビストロミカミ)、森本秀和(現恵比寿サリュー)、01年からは下村浩司が勤め、シェフとしては6代目にあたる。

ここまでくるとFEUにはフレンチの歴史が明らかに継続されているといっても言いすぎではないだろう。
しかしその店内はその重みと言うより開放感に満ちた清々しい雰囲気ですらある。古びた様子などまったく感じることがない空間としてこの乃木坂の静かな地で光を放ち続けている。

シェフの下村氏とフランス大使館でお会いしたのは今年の7月のことだ。シャンパーニュ協会日本支部のパーティーで見事なフレンチをサービスしたその料理人こそが下村氏だったのだ。立食ブッフェという制限された中にありながら、一つ一つの小皿料理は創造性に溢れ、並みいるゲストが感嘆の声を上げていたことはまだ記憶に新しい。

さあ、そろそろFEUのダイニングに移ろうか。