クラシックという一言では片付けることはできないその料理。野うさぎ(リエーブル)のローストと血のソースの絡みは特別だ。煮込用の赤ワインは多分カベルネ種、その中では比較的柔らかいものに感じたのだが、臭い野兎の血との絡ませ方はむしろ細かな糸を紡ぐような印象すらある。赤い血と赤いワイン。その組み合わせは口に含んだ後、さらに赤ワインで洗われる。自然の恵みが幾重に重なり合い、複数の赤い色が醸し出す気分はエロティシズムすら感じさせる。
スペシャリテとされている魚のスープは声も出ない。そして言葉も出ない極めつけの一皿だ。裏ごしの丁寧さ、素材の新鮮さ、暖かさ、喉ごし、どうすればこうなるのか私はシェフにぜひ聞いてみたい。
しかし、矛盾するようだが、このレストランの限界も感じてしまう。シェフ一人で今後どこまで料理を進化させられるか。使える人が何人かいて、そうした環境の中料理を創造していくのか、ということも重要な気がする。このレストランだからこそ、非常に高いレベルで考えていくべき問題と捉えたい。
長方形で遮るものがない店内だが、ベンチシートの裏に小さな空間を設けている。普通なら席数を増やすために壁にしっかり席をつけるものだがそうしていないのは照明の奥行きを上長させるためか。その結果、ゆとりを感じさせるインテリアとなっている。
ちなみに内装は正月休みを利用して作業を行ったとのこと。これまでの内装は天井などのインテリアが非常に評判が悪く、マダムも困っていたようだ。
でも今は大丈夫。南仏風というのはちょっと綺麗過ぎるが、とてもいい雰囲気。
僕の席の後ろにその小さなスペースがあった。ちょっと覗いてみるとカバー下にポールロジェの最高級キュヴェ、サー・ウインストン・チャーチルを発見。飲んでもいないのに何故かとても嬉しい気持ちになった。2度も訪れた僕の大好きなシャンパーニュメゾンだから。そのレストランを好きになるのは誰でもこんな単純でちょっとしたところからではないだろうか。
料理はもちろんのこと、隋所に細やかな気遣いが感じられる、実に温かみのあるレストラン。ソフトな面だけでなく、ラストオーダーも23時と使い勝手も非常にいい。ワイン一杯でもOKだそうだ。
六本木ヒルズがかつてほどの話題性がなくなってしまった現在、これから立ち上がる東京ミッドタウンに隣接するこのレストランが話題になることは間違いないだろう。
帰りに店のドアを開けたときに白い雪がふわふわと。上を見上げると白く光る店の看板のよこをすり抜けていく。コートの襟を立てて表に出ると白い階段の下には漂う雪と重なる暖かなマダムの笑顔があった。
*このレストランについて一緒に行った友人がたくさんの写真と記事を載せています。ぜひこちらをご覧になってみてください。
またこの記事をUPした日の夜遅くに再訪しました。ワイン一杯だけと思ったのですが、ポトフやデザートをしっかりオーダー。ラストオーダーが23時というのも食いしん坊やのん兵衛にはたいへん有難いです。
寒い日に味わったポトフはそれはそれは体も気持ちを温めてくれるものでした。
■ポワン・ドゥ・デパー
東京都港区六本木4-4-2
電話:03-5775-1488
営業時間:平日18時~24時LO
土・日・祝日17時~23時LO 月曜定休
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